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「奥様、お食事は?」
『…いいえ、いらないわ』
「では、何か軽く召し上がれる物でもお持ちしましょうか?」
『いいの、本当に。
……1人にしてくれる?』
「かしこまりました」
結局、あのあとヴィンセントから決定的な答えをもらうのが怖くて、後を追い掛けなかった
結婚したら、子どもを授かって、幸せな家庭を築いていく
それが自然な流れで、間違いなく自分もその流れに乗るんだと信じていた
ヴィンセントとは幼い頃から一緒にいるけど、一度だって意見が分かれた事はなかった
問題に直面した時でさえ、ヴィンセントは何て事ないという顔をしていた
むしろ、わたしが悩んでいる隣で既に答えを導き出していて、問題を解こうと必死になっているわたしを楽しんでいる
でも、今回は完全に迷宮入り
答えなんて見つからない、愛がなければお終いなのだから
誰かと顔を合わせると感情的になってしまいそうで、フランシスが帰ってからずっと図書館に引きこもってる
執事のタナカさんが食事を用意しようとしてくれるけど、食事を摂る気分にはならない
静寂過ぎる空気はまるでわたしだけが世界から取り残されたような気分になる
『…このまま消えられたら幸せでしょうね』
ソファに横になって目を閉じれば、スゥと一筋の涙が頬を伝った
どれぐらいの時間が経ったのか、意識が覚醒するのと同時に瞼を持ち上げる
窓から入っていた夕暮れの木漏れ日は完全になくなっていて、室内は真っ暗になってる
「目が覚めたかい?」
『…っ!』
自分1人の空間だと思っていたのに声を掛けられて初めて彼がいることに気付いた
「よく眠ってたね」
『……』
暗い室内に目を凝らしてみると離れた1人用ソファに座るヴィンセントと目が合う
「気分は?」
『……』
「…その沈黙は話し合いは無しで良いという事かい?」
『あなたに話し合う気なんかないでしょう?ヴィンセント』
「どうしてそう思う?」
『問題の答えはいつもあなたが握ってるもの、幼い頃からずっとそうだった』
「一緒に考えるのが夫婦だろう?」
『夜に1人で出掛けるのが夫の仕事なの? それは知らなかったわ』
「随分とご機嫌斜めだね、A」
ヴィンセントが困ったように短い溜め息をつくと落ち着いたはずの心がまた乱れていく
『…わたし抜きで夜会に出席した理由はなに?』
「……A」
『あなたが何を考えているか分からないっ』
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作者名:water lily | 作成日時:2019年1月20日 23時