悪の華【黒執事】 (ページ15)

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「この間はお疲れ様でした、ファントムハイヴ伯爵」

「陛下のお役に立てれば光栄です」

扉1枚を隔てたホールにデビュタントたちが胸を高鳴らせながら拝謁の時を待っている

しかし、謁見の間は薄暗くどこか張りつめた空気が漂う

「手紙を出そうと思っていたのだけれど、今日あなたがここに来てくれて助かったわ

誰かの付き添いで来られたの？」

ヴィンセントは玉座に座る女王を前に、この人はどこまで把握した上で聞いているのだろうと逡巡する

Aが婚約者だという事実を隠すつもりはないが、ファントムハイヴ家の裏の顔を不用意にAに知られる事だけは避けたかった

自分から見ればAは純粋過ぎる、

人の妬みや僻みなどの汚い部分を嫌って、極力避けてきたような子だ

自分がイギリスの裏社会を見張る〈女王の番犬〉である悪の貴族だと知れば離れていく事だって十分に考えられる

だからこそ、綿密な計画に沿ってきたのだ

Aが小さな頃から教え込んだ

君が恋をするのは俺だと、

Aが自分に恋をするように仕向けて、決して離れないように周りから埋めて

ようやくあと一歩のところまで来たのだ

裏の顔を知らせるのはAが決して逃げられないよう、結婚した後と決めてある

長い計画が実を結ぼうとしているのを女王に邪魔されては堪らない

適当なデビュタントを自分にあてがおうとでもしているのか？

それとも――

「はい、陛下

婚約者のエスコートの為に」

「まぁ！それは素敵

どこのお嬢さんが伺っても？」

少女のように目を輝かせて聞いてくる女王に「A・エバンズです」と名を告げる

「お会いするのが楽しみだわ

婚約者の前で渡さなくて正解だったかしら？」

女王の秘書に運んできた手紙を受け取りながら、やっぱりAが婚約者だと知ってたのかと胸の中で毒づく

「ご配慮に感謝いたします」

「陛下、謁見の時間です」

「お顔を見るのが楽しみだわ、お通しして」

女王の一言で閉められていた扉が開かれる

順番に名を呼ばれ、陛下の前でお辞儀(ｶｰﾂｨｰ)をしていく

「A・エバンズ！」

淑やかにそれでいて凛とした雰囲気を纏ったAが女王の前で膝を折りお辞儀する

A本人は息もできない程の緊張だろうが後ろで見守るヴィンセントは満足そうに唇が狐を引く

「あれがファントムハイブ伯爵の宝物」

謁見が終わった後の女王の言葉は誰に拾われることなく溶けていく