悪の華【黒執事】 (ページ14)

今日:10 hit、昨日:117 hit、合計:134,366 hit

・ページ14

動いていた馬車がゆっくりと止まり、バッキンガム宮殿に到着した事を知らせる

ついさっきまで何とも思っていなかったのに、急に緊張に襲われる

宮殿に足を踏み入れたら、少しのミスも許されない

自分はあのファントムハイヴ伯爵の婚約者として晒されるのだ

小さく震える手をｷﾞｭｯと握りこんで自分を落ち着かせようとするけど上手くいかない

いつもどうしてた？

どうやったら平静でいられる？

頭が真っ白で何も考えられない

『…っ…』

「大丈夫、扉は落ち着いてから開けよう」

『…ヴィンセント』

震えるわたしの手を大きな手で包み込んでくれる

「まだ時間はあるし、慌てる事もない」

この人はどれほど強いのだろう？

自分の将来を賭けに持ち出された時も、わたしが我儘を言う時も一度だって慌てた様子を見せたことはない

今だって、ここまで来ておいて何を言ってるんだと怒られても仕方がないのに、落ち着いてわたしを安心させてくれる

ヴィンセントの瞳を見てゆっくりと深呼吸をする

しっかりするのよ、A

こんな所で気後れしている場合ではないでしょう？

あなたはヴィンセント・ファントムハイヴの婚約者よ

彼自身が自らの意志で「自分の妻に」と望んだのはこの世でわたし1人だけ、

自信を持って良い、

胸を張って隣を歩けば良い

「……」

『大丈夫、ヴィンセント』

「じゃあ行こうか」

バッキンガム宮殿、女王陛下の住まう場所

城内に入るとわたしをエスコートするヴィンセントに気付いて短い挨拶や会釈してくる人もいる

ひと際大きなホールに案内されると燕尾服を纏った男性がｽｯと前に現れた

「A・エバンズ嬢ですね、お待ちしておりました。

女王陛下へは先の謁見の間にて拝謁する事になります」

一通りの手順を説明される

話される内容は事前に聞いていた内容と相違なくて安心する

「ファイントムハイヴ伯爵はわたしと共にお願いします」

「……」

一緒に着いてくるように言われたヴィンセントの視線が一瞬鋭くなる

だが特に抵抗することなく頷いて肯定の意を示す

「少しの間離れるけど」

『わたしは大丈夫よ』

「その心配はしてない」

『そう？』

大丈夫と言ってみせるが一抹の不安を見抜かれた気がする

「A、

きみが1番綺麗だ」

わたしの他にも着飾ったデビュタントが集められているホールでわざと周囲に聞こえるように言う

『……ありがとう』

手の甲に恭しく口付けてホールを出て行った