あなたをさらいに夜がくる ２【文スト】【深夜廻】

夜廻４２.兄妹 ページ5

『入りません入りません帰ります！』



「あァ！？手前も往生際悪ィな！？
どのみち、ここからは自力じゃ１００%出られ
ねェンだ
腹くくれよ女だろ！？」




『普通そこは男が入ると思うんですけど！？』



やっぱり嫌われるような会話をするんだった！



龍の時もそうだったのに、私ってなんで学習しないの！？




あっ、今から太宰さんの事誉めまくったら嫌いになってくれるかな




‥‥‥駄目だ。殺される未来しか見えない




内心パニックの私の頭をガシガシと撫で回す
中原さん




その瞳は、完全に妹を心配するお兄さん



めちゃくちゃ照れ臭いけど、わたしには兄弟がいなかったから



ちょっと嬉しいかも、とか思ってしまう



‥‥ダメダメ！





私はこっそり自分の両手を見た



‥‥異能力を使えば、或いは




この数日間、何度も考えた事だ



でも、扉の前には見張りがいる



その状態で使ってしまえば、すぐ人を呼ばれてしまうだろう


何とかして、追い払えないものか




‥‥それに



脳裏に、赤い裁ち鋏が浮かぶ



此処には、
とてつもなく強い人達がたくさんいる



中原さんだって、あの龍より位が上なのだ

相当に強いんだろう



この人達をかいくぐるには、きっと

あの「カミサマ」の力も借りることになる



‥‥神頼みはしないって決めたのに



自分勝手な欲望で、神様には頼りたくないって思ってたのに





「‥‥い。おい、おい！！」



『！？ は、はい！』



「大丈夫かよ手前、さっきからボーッと
しやがって」


『あ、す、すみません！』


黙りこみすぎたみたいで、中原さんが私の顔を覗きこんでいた


「ったく。しゃんとしろよ


‥‥手前、なんだか妹みたいでほっとけねェ
んだよ」



あ、やっぱりそう思ってたんですね


私もお兄ちゃんみたいだなって思ってた


そう言ったら、きっと、喜ばれてしまいそうだから黙っていよう



「‥‥手前」

『？ はい』



「その髪留め、誰に貰った？」


中原さんは、私の髪を結わえているゴムに
視線をやっていた


『あ、これはエリスに。森鴎外さんに取り寄せ
て貰った見たいですけど』



「‥‥‥ふーん。成る程なァ」


『‥‥中原さん？』



「なんでもねェ。俺そろそろ行くわ」



帽子を深くかぶり直して、立ち上がる中原さん



「じゃあな。また来るわ」



『大丈夫です！』


中原さんは悪戯っぽく笑うと、出ていった



私はその小柄な後ろ姿を見て、深いため息をついたのだ

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