言わない、言えない４ ページ7
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松本が出て行ったドアを二宮はしばらく見ていた。
荒々しくドアを閉めたのに、階段を下りる音は聞こえてこない。松本がドアの前できっと迷っているんだろうと思った。
けれど声を掛けようとすると、松本の傷ついてショックを受けたような顔が浮かんでくる。
諦めたように階段を下りていく足音がして、二宮は反射的に腰を浮かせた。その二宮の手を、そっと掴んだ冷たい手が引き留める。
横になったまま大野がうっすらと目を開けていた。
力のない表情だが、その目は柔らかくて強い光が戻っている。その目に引き付けられて、二宮を掴んでいる力はそれほど強くないのに動けなかった。
「起きてたんですか…？」
「うん…起きちゃったみたい」
ばつが悪そうに淡く微笑んだ大野は、ゆっくりと体を起こした。慌てて支えようとする二宮を制して、大野はドアのほうに視線を留めた。
「待っててあげて。松本くんのこと」
「え？」
「きっと必死にニノのこと考えようとしてる。
まだ今は整理が追い付いてなくて自分のことでいっぱいいっぱいだけど、でも、彼はちゃんとわかろうとするよ。だから、信じて待っててあげて」
優しい、凪のように穏やかな声に包まれて、二宮の目から涙がこぼれた。
「…いつも間違えるんだ」
またタイミングを間違えた。
本当のことを話せば松本を傷つけると思った。松本は何も悪くないのに、罪悪感を感じるかもしれない。そして松本はひとりになった自分を絶対に一人にしない。きっと二宮の傍にいることが自分の義務みたいに、ひとりから守ってくれる。たとえ自分の自由を犠牲にしても。
でもそれじゃ、だめなんだよ。対等でいたかった。俺だって気兼ねなく冗談を飛ばせるような、頼れる友人でいたい。
可哀想なんて思われたくない。弱い奴になりたくない。そんな見栄っ張りも含まれていた。
だから、話すのは今じゃない、もう少しだけ―――そうやって先延ばしにした。
今日松本が気づかなければ、俺はいつ松本に話したんだろうか…？
先送りにして隠すほど、バレてしまった時、深く傷つけてしまうのに。
「あの人の時もそうだった。
壊れそうなの気付いてた。
気付いてて、言葉にすると本当に壊れそうで、触れちゃいけないって俺もあの人も気付かないふりして笑ってたんだ。
全部終わってから、手遅れだったって気が付いた」
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作者名：スイミー | 作成日時：2018年2月28日 11時
