言わない、言えない２ ページ4
抱き上げた時の大野の軽さに驚いたが、思ったほど顔色が悪くなく、呼吸も落ち着いていてほっとする。
大野を二宮が出した布団に寝かせながら、長い前髪がかかって幼く見える顔にどこか懐かしさを感じて、松本は大いに戸惑った。
会ったのは二度目だ。なのに包まれているような、守られているような安堵が沸き上がってくるのはなぜなのか。
それにどうして二宮は大野に我を忘れるほど取り乱したのか。
普段の二宮なら、冷静に救急車でも呼びそうなものなのに。
松本が答えを求める長い沈黙の後、二宮は「ごめん」とだけ呟いて、またしゃべらなくなる。その間もじっと大野を見つめたままだった。
いや、見ているようで、その目はどこも映していない。
心ここにあらずといった様子で、意識はどこか遠くにある。
「ったく…なんなんだよ。意味わかんねえ」
別に二宮に苛立っているのではないが、混乱してきて、ぐしゃぐしゃと頭をかくと松本は乱暴に立ち上がる。
「飯にしよーぜ。腹減った。どうせお前もなんも食ってないんだろ。
あとおかゆつくるから鍋借りるな？」
返事の帰ってこないのを承知で一人でしゃべって、棚を開けると鍋キューブを見つけて「鍋にしよう」とてきぱきと鍋を取り出す。けれど冷蔵庫から野菜を取り出そうとして松本は違和感を覚えた。
野菜や牛乳、豚肉など、中身は入っているものの、棚に空白が多い。
松本の記憶では二宮の母親は夜仕事に行くので作り置きをしていた。いつも冷蔵庫がパンパンにならないと気が済まないようで、作りすぎたからと保存容器に入れて遊びに来た松本に持たせることもよくあった。
あの人が冷蔵庫をいっぱいにしておきたいのは、きっとある種病気だ。何か不安を埋めるように、あの人は冷蔵庫の隙間を埋めていた。そんなに簡単に、治るはずがない。
なのに冷蔵庫は埋まってなくて。しかも、ずっと前からそうだったように。
なあ、それって…そんなこと…
「…カズ。おばさんは？今、仕事…なんだよな？」
声がかすれないように、さりげない声を装おうとした。
答えは返ってこない。後ろ姿は微動だにしない。けれど二宮の意識が今こっちに向いていることはわかった。きっと二宮は、松本が気づいてしまったことに気づいている。
「…なんで…いつから…」
「…ごめん」
その罪悪感が滲んだ声に、松本の中で何かがはじけて溢れた。
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作者名：スイミー | 作成日時：2018年2月28日 11時
