夜明けを灯す８ ページ21
聞き分けのいい子でいたら、もしかしたらうまくやれるんじゃないかって思ってた。
本当は気付いてたのに。
父さんからもらったネックレスをつけて他の男と会う母さんに、俺は耐えられない。
父さんに似た顔の俺と他の男と暮らすことを、あの人は耐えられない。
だけどいい子でいなきゃと思ったから、抵抗することさえできなかった。
だんだんほつれていく糸を、ただ見てた。
切れた糸を、再び縒り合せようともしなかった。
あの人が出て行った後でさえ、自分から連絡を取ろうともしなかったのだから。
だからわかるんだ。
あの人はもうほどけた糸は結ばない。
「大野さん」
呼びかけた声に大野は「ん？」と二宮を見つめた。
「俺、ただ待ってるの、やめようと思います」
約束は今夜8時。場所は月見ヶ丘。
その場所はまだ小さかった俺と、あの人と父さんの三人で星を見に行った場所。
いつだってそう。
何かをするとき決めるのは、いつもあの人が決めた。
何かをしようと誘うのも、出かける場所も時間だっていつも当たり前のようにあの人が決めた。
『大好きよ』
『愛してる』
『ごめんね』
あの人の言葉も、俺はただ待ってるだけだった。
俺の手を取るのも、放したのも、決めたのはあの人。
最後の場所まで、あの人が決めた。
俺はいつだって出されたものに乗っかって流されるだけ。
仕方がない、そういうもんだって、受け入れることが賢いんだってずっと思ってた。だけど本当ははただ、抗うのが怖いだけだった。
いつだって何かを変えることは痛みを伴うから。
流されるだけならあまり傷つかないから。
ならば極力波を立てないよう、荒立てないよう、流されるままで。
俺が選んだわけじゃないって、傷つけられたのは俺だって、本当のところはただの臆病なだけの卑怯者だった。
だから最後ぐらい、流れに竿差して、自分の力で漕いで、流れを変えられなくたって流され方だって自分で決める。
何も変わらないのだとしても足掻いてやる。
「俺、今これから、母さんとふたりでデートしてくる」
強い眼差しで顔を上げた言った二宮に、大野は目を見開いた後、柔らかく微笑む。
携帯を出した二宮の、携帯を持っていない方の手に自分の手を乗せて。
大丈夫。ちゃんと待ってる。
柔らかい色の瞳がそう言っているような気がして、二宮は少し安心して通話ボタンを押した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 118人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：スイミー | 作成日時：2018年2月28日 11時
