第一章 ページ2
子供、子供と言ったか。 小生の聞き間違いでは無いだろうとは思ったが、もう一度聞いてみることにした。
夢野「すみません…小生の耳が悪いみたいで…もう一度言っていただけることは可能ですか？」
「だから、子供が出来たって」
夢野「……麻呂はじじぃになってしまったかのぅ」
「あんた逃げてクズ男になろうとしてる？」
夢野「してません。思いません。すみませんでした。」
「よろしい」
夢野「…何方のです？」
「幻太郎と私の」
夢野「どこに？」
「私のお腹」
夢野「いつ？」
「それは思い出してください」
ごもっとも。
夢野「……本当に、本当に出来たんですか？」
ふざけた会話をしつつも徐々に現実が見えてきた。
これは、夢ではないのだろうか。
「うん、ごめん。」
なぜ謝るのだろう。
夢野「…っ、、すみません…謝らせたいわけではないんです……。」
言いたいことが上手く言葉にできなくなってきた。嘘ばかり言葉にするこの口も今日ばかりは働いてくれないようだ。
「げん、たろ？」
繕っている笑顔も出来ず、座っている彼女に近づき肩に顔を埋めた。
「泣いてる……？」
夢野「……泣いてません。」
「……そういうことにしておいてあげる。」
あぁ、彼女の優しさにいつも助けられているな
と思いながら、働かない口を無理やり動かす。
夢野「…産んで、くれますか？」
「いいの？」
誰がダメと言うのだろう。
そんな言葉も出てこず、肩に埋めたまま頷いた。
その振動が伝わったのか彼女は小生を抱きしめた。
夢野「俺…こんな幸せでいいのかなぁ……」
「…幻太郎は誰よりも頑張ってきた。だから、もういいんだよ。一緒に幸せになろう？」
小さな声で呟いた自分に対しての質問に彼女が答えてくれた。
素の自分を受け止めてくれるのは彼女しかいない。いつの間にか戻っていた一人称も気にせず、幸せを噛み締めた。
前が見えない。誰にも見せられる顔では無いままの小生を、彼女はそんな俺を優しく抱きしめながら一緒の顔をして涙を流してくれた。
ここから父様と母様、そして其方のお話が始まります。聞きます？
では、父様のお膝においでなさい。
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作者名：鈴蘭リンドウ | 作成日時：2023年8月28日 2時
