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「名前と顔の傷でピンときた…不死身の杉元。こんなところで戦争の英雄に出会うとはな」
「英雄なもんか。俺は死に損なっただけだ」
杉元が答える。
スカラは終戦し解放された都市や祖国へ帰った時のことを思い出していた。ひどく騒がしいメディア達、響く音楽と自身を持て囃す歓声。瓦礫と崩壊した建物に似つかわない明るく暖色に色めきだった街。その中で背を丸めながら粛々と行進する自分や戦友達の姿をよく覚えている。
杉元とは違い、彼女は間違いなく英雄だった。他者の認識からすればどちらも戦争の偉人であったが、スカラは決して死に損なったなどと思っていない。戦争をすれば次の戦争が待っている。武力同士の対立や殺し合いではなく、権謀術数蠢く上流社会での生存争いや外交における腹の探り合いと駆け引きも彼女にとっては戦争だ。スカラはまた戦場に立ちたかった、戻りたかった。自身の居場所はあの死体が堆く積み上がった大地なのだと定義した。だからスカラは紛うことなき英雄なのだ。スカラの足跡はある時から自分を含めた人間達の血を残して続いている。
「アシㇼパはどうしてこいつらと一緒にいるんだ？」
イトウの塩焼きを頬張っていた彼女はそれから口を離し悩むように唸る。そして太陽のかたちを反射して煌めく瞳を杉元に向け言い切った。
「相棒だ」
スカラが思わず微笑んだのも束の間。今度は彼女や白石に蒼眼を合わせる。
「こっちのシライシは役立たず。スカラは…私の姉のようなものだ」
姉、と形容されるほど、私は彼女に何かを与えたか？とスカラは考えた。彼女に思い当たる節は無かったけれど、アシㇼパにとっては自身の父の影を思わせてくれること自体が何よりも理由だ。彼女のような姉がいたならばどれほど───と思わなかった時が無いわけじゃない。スカラは自分自身が思うよりずっと優しくて身内に甘い女なのだ。
「そうか…アシㇼパがそう言うなら信用できるんだろう」
心底安心したような顔付きだ。まるで父親が子を見守るみたいな表情。
「最後に会ったのは……お前の父親の葬式か」
「戦争から戻っていたなら会いに来てくれれば良かったのに」
「行ったけどお前はいつも村にいないと聞いたぞ」
アシㇼパは確かにずっと山に篭っていた。村で女の仕事をしているよりも、森へ入って狩りをしている方がよっぽど楽しかった。それに父の教えを実感できるから。
「だから俺はここで待っていた。アシㇼパに伝えたいことがあるのだ」
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
