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「キロランケニㇱパ！！」
アシㇼパの知己であるらしく、彼女は片腕をあげて手を振る。
「アシㇼパか？」
濃い髭とハッキリとした目鼻立ちをした色男だった。ただどことなく北海道アイヌらしくない、外国人の血が強いようにスカラは感じた。ただの勘なのであまりあてにはしていないが。
アシㇼパは彼を自身の父の友人だと話す。白石が飴とイトウを交換しようと持ちかけたが、タモ網を貸すから自分で獲れと返された。
「面倒だな」
「がんばれよ」
白石が桟橋を歩いていくと、途中で板が折れ頭から川に飛び込んだ。三人が呆れながらも助けようとすると、何かに掴まれたように息を吐き出しながら沈んでいく。そこには白石の身長を軽々超えるほどの巨大なイトウがいた。彼を呑むように咥え水底へと引きずり込んでいく。
「イワン・オンネチェㇷ゚・カムイだッ！！」
「白石が食われた〜ッ！！！」
「白石ぃ〜！」
即座にキロランケが小刀を引き抜いて川に飛び込む。そしてイトウの脳天を突き刺し陸へと打ち上げた。
「シライシはどうなった！？」
浅瀬に転がるそれらの感想はひとつ。
「人魚だ」
先程の巨魚イトウは刺身や塩焼きにして食べた。ヒンナであった。
「目玉は茹でダコの味がして美味い。しゃぶっていいぞ杉元」
「杉元…不死身の杉元か？」
なぜそれを？と杉元が聞き返す。キロランケは煙管を咥え直し「俺は第七師団だ」と言った。
すぐに動いたのは杉元とスカラであり、両名とも銃剣やマキリ包丁に手を伸ばす。スカラがコートのインサイドポケットにおさめているこのマキリは、以前のニシン番屋で使われていた包丁だ。使い古されていたもののよく研がれていたため、欲しいと頼んで貰い受けたのだ。この金塊争奪戦に参入する以上、さすがに自衛できるものが欲しいと思っていたところだったのでありがたかった。
話を戻そう。元兵士なだけあって警戒の早さが異常な二人は、刃物に手をあてながらキロランケに鶴見中尉の手下かと問う。しかし、彼はあっさり否と答えた。除隊し村で生活しているので誰とも関わりはないとも。
確かに第七師団だからといって鶴見中尉と同じ小隊であるとは限らない。嘘は吐いていないようだったので二人は刃を納めた。白石とアシㇼパは安堵したようにため息をついたのだった。
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作者名：mYDEAr | 作成日時：2024年3月13日 11時
