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沖田side
·

「さかさま少女?間違えたら死ぬ?」

「…これがその楽譜でィ」

《さかさま少女のためのピアノソナタ》を拾った翌日、大学の食堂。後輩にあたる山崎に、俺は昨日のことを話していた。

調べた情報によれば、この曲はドイツのとある無名作曲家が作った曲らしい。曲名の下には注意書きがしてあったのだが、訳してみると《もし弾き間違えたなら、腕を失うことになるだろう》《誰もこの曲を聴くことは出来ない》というにわかには信じ難いことが書かれていたとわかった。さらに、ネットでたどり着いたサイトには、かつてこの曲を弾いて大怪我をした人がいる、という都市伝説が載っていた。
どうしてそんな楽譜があの古本屋にあったのか、そもそも本当の話なのかも分からないが。

「えー、こんなの怪談話的なものじゃないんですか?」

「十中八九そうだろうけどねィ」

「…この楽譜についてる赤いシミって、まさか血ですか!?」

「それはわかんねェけど、可能性は…」

その時、俺たちの隣を一人の生徒が横切った。
──例の鮎川A、人呼んで天才ピアノ少女。学内でも名を馳せる彼女は、歩くだけでそれなりの視線を浴びるのだ。
…嫌でも昨日のオーディションを思い出してしまう。


「ま、こんな変なことがあったっつー話」

俺は無理やり山崎から譜面を取り上げた。そのままリュックにしまう。
山崎は興味深げにそれを追っていたが、やがて視線を他の人と同じように鮎川に移した。


***

「…」

いや、何をしようとしているんだろう。
グランドピアノがおかれた大学の一室。カチカチと音を立てるメトロノーム、窓の外は今日も雨。雨音と賑やかな声がここまで伝わってくる。
…譜面台に置かれた、《さかさま少女のためのピアノソナタ》。
別にあの噂を信じきった訳では無い、が、かなり気になる。好奇心に負けた結果、俺は今、この曲を弾こうとしている。

そこまで難しい曲ではない。三連符がやたらと多いが、単純な動きの繰り返しだ。昨日ある程度譜読みはしてみたし、問題は無い。


俺は鍵盤の上に指を置いて、メトロノームに合わせ、楽譜に書かれた音を弾き始めた。
──そして、すぐに気づいた。


ピアノの音以外の、音がしない。
メトロノームの音も、雨音も、人の声も。
しんとした静寂。俺は反射的に顔を上げる。
…メトロノームが、止まっている。中途半端な角度で、重りは動くのをやめていた。

驚いて見た壁掛け時計の秒針も、5と6の間を指したまま、止まっている。

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みるくれーぷあいす(プロフ) - ちぃなさん» ありがとうございます!これからも楽しんでいただけると嬉しいです。 (2019年10月30日 16時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
ちぃな - ホラー好きなので嬉しいです!更新楽しみにしてます。 (2019年10月29日 14時) (レス) id: 43ae00df60 (このIDを非表示/違反報告)
みるくれーぷあいす(プロフ) - 綾葉メグさん» ありがとうございます!マイペースな更新ですが、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 17時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
綾葉メグ(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (2019年10月27日 15時) (レス) id: fe3feae032 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/  
作成日時:2019年10月15日 1時

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