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妙side
·

「六年前に娘が亡くなって、妻の母もあとを追うように死んでしまって。…妻自身も娘の死に精神を病んで、そのまま亡くなってしまいました」


気の毒に。一気に大切な人を亡くしてしまった長谷川さんに、返す言葉をなくしてしまう。

…それにしては長谷川さんはやけに朗々としているけれど。

「娘はね、飼い犬だったポチを探しに大雨の中、森に入っていったんです。そのまま迷子になって、ポチを抱えたまま森で倒れて、動けなくなっていたところを発見されて」

車内には長谷川さんの声だけが響いている。

「娘は肺炎になっていて、既に手遅れでした。…俺はその時、用事で離れた場所にいて。娘の死に目にも、会えませんでした」

車が少しがたがたと揺れて、大通りに差し掛かった。
私は長谷川さんの暗く重い話になんとも言えない気分になって、バッグミラーに映る彼の顔をただ見つめる。




「そして──ポチは、誰かが仕掛けた罠に足を挟まれて骨折し、草が絡まって動けずにいたそうです」

どくりと心臓が嫌な音を立てる。
…草の罠?
六年前、隣の民宿、近藤さんに仕掛けたイタズラ、結んだ草。
全てが繋がる。
まさか。

「あのへんは草むらが多くてね。草むらのすぐ近くは森だったんですよ。
…おおかた、学生のイタズラかなんかだったんでしょうが」

一気に低くなる長谷川さんの声。
私は蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなる。

飼い犬だったというポチは、私たちの仕掛けた罠のせいで──


「まあ、いいんです。決めてたんで」

なにを、と隣で九ちゃんが掠れた声を出した。



「今日は娘の命日。今日娘に逢いにいくって決めてたんですよ」

ぐうんと車が加速した。


「いやあ、幸運な偶然の一致だ。最後の客が、娘の因縁(・・)だったなんて。本当、こんなこともあるんだなあ」


長谷川さんは乾いた笑い声を上げる。
逢いにいく、娘に。
…そんな、


「ははは」



次の瞬間、長谷川さんはハンドルを切って対向車線に飛びだした。

フロントガラスいっぱいにうつる、こちらに向かってくる大型トラック──


「幸運だ」


長谷川さんの声とクラクションを最後に、私の視界は暗転した。



END

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みるくれーぷあいす(プロフ) - ちぃなさん» ありがとうございます!これからも楽しんでいただけると嬉しいです。 (2019年10月30日 16時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
ちぃな - ホラー好きなので嬉しいです!更新楽しみにしてます。 (2019年10月29日 14時) (レス) id: 43ae00df60 (このIDを非表示/違反報告)
みるくれーぷあいす(プロフ) - 綾葉メグさん» ありがとうございます!マイペースな更新ですが、これからもよろしくお願いします。 (2019年10月27日 17時) (レス) id: 147ef4680d (このIDを非表示/違反報告)
綾葉メグ(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (2019年10月27日 15時) (レス) id: fe3feae032 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みるくれーぷあいす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ykoma1218/  
作成日時:2019年10月15日 1時

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