ベ ー ス 3 ページ3
Aside
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私の隣の席に座る土方が、授業中に話しかけてくるのは珍しい。
「いや、大丈夫か」
『…え』
だってお前、酷い顔してたぞ。
土方は心配そうに私の顔を覗き込む。
その言葉に、少しだけどこかが温まる。
『そう?…別に大丈夫だよ』
「ならいいけどな。…なあ、今日、ちょっと楽器屋行かねぇ?」
『あ、行きたい、超行きたい』
私と土方、そして神楽と沖田は同じ軽音楽部に属している。__否、属していた。文化祭があった、この前の六月まで。文化祭ライブを最後に、私達は引退したのだ。
『最近キーボード触ってないなあ』
「俺もベース全然やってない」
私はキーボード、土方はベース。神楽はギターとボーカルで、沖田はドラム。軽音楽部内で組んでいたこのバンドはかなりの人気があった。ただただ楽器を愉しんでいたあの頃が、酷く昔のように思える。
『うん、放課後ね。れっつごーしよう』
「おう」
勉強の関わる余地のない会話に、息が抜ける。少しだけ助かった、と思う。土方に、少なからず感謝した。
***
放課後。
これから予備校だという沖田と、塾の体験学習に行くという神楽を校門で見送り、土方と楽器屋のあるショッピングモールへと歩き始めた。
ショッピングモールは銀魂高校から徒歩で十分ほどだ。土方と並んで歩を進める。
少し日差しが翳って、風が冷たくなっている。
夕方はもう秋のようだ。昼間と大違い。
『…みんな、すごいね』
ぽろり、と言葉が口からこぼれた。
あれ。この天気のせいかな。
『すごい、努力してて。神楽もお妙も、教室全体が勉強の雰囲気になっててさ』
風邪が頬を撫でる。ぎゅっと拳を握る。
ずっと体の中にいたモノが、口から溢れていく。
『私、なーんにもしてなくて。馬鹿みたいに呑気で。もう、ほんと』
涼しいのに。朝とは真逆で、体が熱かった。前が向けなかった。
『…どうしよ』
ぴぽーん、と横断歩道の音が鳴る。
あ、とその時に私は気づく。
『ごめん、土方、私___』
「俺も」
自分の恥ずかしい悩みをくだくだと語っていたことに気づき、言葉を止めた。
そして思わず、顔を上げた。
土方は相変わらずただ前だけを見ていた。
「俺も、なんにもしてねえ」
なんにもしてねえ。その言葉が本物であることが、焦りと自嘲の交じる声音から伝わった。
「思い出しちまうんだよ、文化祭前のこと」
文化祭前。
その風景を、私は思い出す。鮮明な、その思い出を。
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みるくれーぷあいす(プロフ) - 鈴神さん» 嬉しすぎるコメントありがとうございます!これからも鈴神さんにそう思っていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします。 (2019年8月24日 13時) (レス) id: 0de76de774 (このIDを非表示/違反報告)
鈴神(プロフ) - こんにちは!突然ごめんなさい(汗 作品読ませて頂いたんですが、一人一人の気持ちがとても丁寧に書かれていて一つ一つの話にすごく惹かれました!!ほんとに素敵なお話ばかりなのでこれからも応援してます!頑張ってください!! (2019年8月24日 1時) (レス) id: de3968cf62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるくれーぷあいす | 作成日時:2019年8月13日 1時