#��_15 ページ16
宛てがわれた部屋のベッドに腰掛け、またあの日以降繋がらなくなってしまったは番号を眺める。
そのままぼんやりと物思いに耽っていれば、唐突に携帯が震えた。
液晶画面に浮かんだ文字に思わず目を見開く。
｢兄さん!!｣
『あ、修也？』
慌てて応答のボタンを押し、半ば叫ぶようにして彼を呼べば変わらぬ声に名を呼ばれた。
肩に篭っていた力が抜け、思わず深々と息を吐き出してしまう。
不安で仕方なかった。
ずっと連絡の取れない日々。
嫌な予感が過ぎる日だって一日二日じゃ済まないくらいあった。
それでも彼を信じ、豪炎寺は仲間の為にボールを蹴った。
｢心配したんだぞ……!!｣
『うん』
どうやら心配させた自覚はあるらしく、素直な声で彼は謝ってきた。
迷惑かけてごめん、と。
『父さんとの賭けに勝ったよ』
｢な、｣
勝てない、勝てるわけないと絶望していた彼。
もがいてももがいても先が見えないような暗闇に差したか細い光明を、彼は掴み取ったというのか。
『夕香ちゃんには手出しされてないし、今後も一切しないって』
一応証拠もとってある、と電話口で流された音声にほっと息を吐き出す。
＿＿サッカーを好きになれない。
あの彼の苦しげな顔を忘れることは無いだろう。
亡き友人の為に、その亡き友人を忘れぬ為に。
楽しいから、好きだから、と単純な理由でサッカーをする訳じゃない。
あの条件通りなら彼はもう自由のはず。
帰ってくるのか、と聞きたかったが唇は震えるばかりでまともな言葉を発さない。
『修也』
なんで、そんなに優しい声で。
『僕は皇を継ぐ』
｢……その座に着くのは、兄さんじゃなきゃダメなのか｣
そこまで経済の世界に詳しくない人間でも皇グループの強大さは知っている。
美術界の重鎮と呼ばれ、誰も横に並ぶことの無い一族。
そのプレッシャーを、中学生の子ども一人に背負わせるというのか。
『僕じゃなきゃダメだよ』
＿＿僕には生まれてきた意味がある。
『それを持つのは僕だけじゃない。
修也も、白竜も、皆。この世に生きとし生ける者は皆生まれる理由があって産まれてくる。』
怖くないわけが無い。
きっと彼は父との賭けに勝つべく、知らなくてもいいあの家の暗部まで知ってしまった。
あまりにも大きな影響力を持つ、あの家の秘密を。
『僕は皇を継ぐ為に生まれてきた』
｢そんなの、｣
でもね。
豪炎寺の声をさえぎって彼は言う。
『それは僕の生まれてきた理由であっても、僕の生きる理由じゃないんだ』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名前はまだない - イナイレ小説の中で1番好きです... 主人公のキャラや設定、性格などが刺さりすぎてやばいです。更新楽しみに待ってます！ (2021年7月3日 10時) (
レス) id: 567784a46c (このIDを非表示/違反報告)
あかや(プロフ) - コメント失礼します！！面白すぎて一気読みしてしまいました…主人公君のキャラ？性格？とても好きです！なんて言うか、飄々とした感じの… 続き待ってます！！ (2021年4月2日 16時) (レス) id: eed553f04a (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 度々コメント失礼します！大好きな作品なので何度も読み返しては楽しんでいます！もし可能であれば、主人公が松風天馬君と同年代で帝国に入学という設定でイナイレgoシリーズの話を読んでみたいです！これからも作者様のペースで頑張ってください！ (2020年11月18日 14時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：湯葉 | 作成日時：2020年10月7日 7時
