209:教師、配意 ページ48
「今回は不問にしてやろう」
『(ぁ、ぶなかったぁー…!)』
夕暮れの談話室でAはひくりと喉を震わせた。優美に脚を組むカルエゴの手にはA4の新聞記事が2枚。あれが1枚だけなら今頃、自分が座るのは椅子でなく彼の足下だったに違いない。
一緒に新聞師団に乗り込むと言う問題児クラスの面々をなんとか宥め(そもそもAは乗り込むつもりではない)ならばせめて伏兵を!というアスモデウスの提案に、激闘のジャンケンを勝ち抜いた2人で両隣を固め直談判しに行ったところ…これがなかなか良い人選だった。
『(すぐ訂正文出してくれてよかった…!ジャズくんサブローくんありがとう!)』
ジャズの交渉とサブノックの圧により新聞師団は潔く工作を認めた。あと数分でも遅ければカルエゴの詰問に間に合わなかっただろう(――後にこの件が知れ渡り、命惜しくばAに手を出すな、という教戒が改めて浸透したことをAは知らない)
「A」
『っは、!ぃ…』
顔をあげ、目を見張った。カルエゴの表情は真剣で、それ自体は特段変わったことでは無いのだけれど。連絡を受けた時の疑問が再び浮上する。珍しい、と思ったのだ。指定された場は利用者歴が記録される談話室。入った瞬間香ったコーヒーと…彼の家で饗される時の甘いココアの匂い。
感じた違和。
厳粛な彼が、公正であるこの場で”特別”を滲ませていることへの。
どうしてこんな待遇なのだろう。カップの中で揺れるそれのように甘い時間を過ごす…なんてことはさすがに、有り得ない、し
緊張に身を硬くしたAに気づいてか、
カルエゴの低く、それでいて穏やかな声が告げた。
「暫くのあいだ、俺はバビルスを離れる」
『…え、っ…』
曇るAの頬にカルエゴの手が伸びた。想定内だったように椅子同士の距離は元より近く、うっかり躓きでもすれば、簡単に相手の懐に雪崩込んでしまえそうな。
「詳細はまだ話せない。期間は判らんがそう長くは掛からないはずだ。…お前には言っておきたかった」
Aの思考が悪いほうへ進む前に言葉を掛けていく。
覚悟を決めても、頑張ると宣言しても。Aの根底にある悲観思想が無くなることはないし、無くしてほしいわけでもない。
ただ…ただ殊更に。
安心してくれれば良いと…――自分を、
『待ってます。』
「…!」
頬に添えた手を繋ぐ、祈るような華奢な右手。
『…だいじょうぶ。
――信じて、待ってます…ッ…』
見張った双眸に映るAは、たしかに微笑っていた。
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夜雨(プロフ) - 名無し11981号さん» コメントありがとうございますー!!随分と熟睡できない日々を過ごさせてしまいました…^^ようやく7章始動となります!これからも愛読してくださると嬉しいです…! (2023年3月30日 11時) (レス) id: 2b5b6ce78a (このIDを非表示/違反報告)
夜雨(プロフ) - kanayamamoto112さん» お待たせしました…!7章開始になります!ゆっくり更新になりますがそのぶん楽しんでいただけるよう頑張ります^^次の章でも夢主ちゃんは大変な目に遭います!(鬼) (2023年3月30日 11時) (レス) id: 2b5b6ce78a (このIDを非表示/違反報告)
夜雨(プロフ) - カキフライさん» 閲覧、コメントありがとうございます!お待たせしました7章開始となります!こちらも楽しんでいただければ幸いです^^ (2023年3月30日 11時) (レス) id: 2b5b6ce78a (このIDを非表示/違反報告)
夜雨(プロフ) - ユノンさん» 閲覧ありがとうございますユノン様!本日7章開始となりましたー!よろしければ引き続き見てやってください^^ (2023年3月30日 11時) (レス) id: 2b5b6ce78a (このIDを非表示/違反報告)
名無し11981号(プロフ) - 一章からまとめて読みました!!続きが気になりすぎて寝れそうにありませんw.続き楽しみにしてます!!更新頑張ってください! (2023年3月20日 21時) (レス) id: c91637211e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜雨 | 作成日時:2022年6月6日 18時