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神威は速度を落とすことなく、吹雪の中を進む。敵を振り切れたのか、もう気配はない。
「神威、ここで止まって。そこの洞穴で少し休むよ」
「そうだね」
Aの提案を素直に受け入れて、偶然見つけた洞穴に入る。これでやっと風を凌げる。
「私、木を集めてくる」
「危ないから、Aより強い俺が──」
「私より重症なんだから、じっとしてて。今は敵の気配ないんでしょ?」
「……声の届く範囲にしか行くな。何かあったら、必ず呼べ」
余裕がないからか、神威はいつものような取り繕った空気を纏っていない。表情も、声色も、心なしか強ばっている。
「すぐそこで拾うだけだから」
そう言い聞かせて、洞穴のすぐ近くで薪を拾う。適度に集め、そそくさと洞穴内に戻る。
Aは薪を並べると、ポケットからライターを取り出して火をつけた。そこらで集めた棒切れだけだから、小さな火しか灯せない。それでも、ないよりは遥かにマシだった。
Aは神威の横に、身を寄せ合うようにくっついて座る。そして、羽織っていたマントを神威にもかけて、一枚に二人でくるまるように広げた。
「はー、あったかい」
やはり他人の体温というのは温かい。貴重なカイロである。
「マント貸してくれてありがとう。私じゃ足手まといになってゴメンね……」
「何? 死亡フラグ立ててるの?」
「いや違うけど」
「じゃあ、全部終わってから言いな……A、聞いてる?」
うつらうつらし始めるA。
「今は……夜だから……Aちゃんは……おねんねの時間なの……」
「おい寝るな」
揺さぶっても効果はない。ぽやぽやしている。そのまま寝息を立ててしまった。
「はぁ……世話の焼ける秘書様だよ」
神威はAを自分の方に寄せる。体温が下がってしまわないように。
華奢な身体は、少し捻ったら簡単に壊れてしまいそうで。こんな脆い身体で、よくここまで生きてこれたものだ。
Aの頭から流れた血の痕を、神威は険しい表情でそっとなぞる。
──あそこに待機させた俺の判断ミスだな、悪かった。
詩辺螺星の夜は、どこまでも寒かった。
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夢宵桜(プロフ) - 琥珀糖さん» 読みにくくてすみません…。配色を少し変えてみましたが、如何でしょうか。 (4月1日 6時) (レス) id: 77ab0362c3 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀糖(プロフ) - 色盲とかではないのですが、背景と文字の色が同系統すぎて読めません。可能でしたら変更して頂きたいです。 (4月1日 1時) (レス) id: 02d9a0ed5d (このIDを非表示/違反報告)
夢宵桜(プロフ) - 名無し5059号さん» 見えない色と見える色を教えて頂けますか? 私は色盲についての知識が浅いため、今の配色のどの部分が見えないか教えて頂けたら、対処法を考えられるかもしれません。 (2月16日 23時) (レス) @page46 id: 77ab0362c3 (このIDを非表示/違反報告)
名無し5059号(プロフ) - 色盲で文字が見えないけど対処法ありますか? (2月16日 22時) (レス) @page1 id: 427c7b5a4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy
作成日時:2023年12月13日 23時