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山のように積み上げられた皿。皿。皿。
目の前で幸せそうに食事をしている憎たらしい青年しか、もう見えない。皿が壁のようにそびえ立っているから。
「お金足りるかな──」
「あ、店員さんこれ10人前追加で!」
奢るなんて言った自分を殴り飛ばしたい。
Aは並べられた皿を見て遠い目をする。
そんなAの虚ろな目に気づいたのか、神威はハッとしたように謝った。
「あーごめん……いつものクセで気づいたら頼みすぎてた……。お礼はいずれするヨ。必ずさ」
「そう、待ってるわ」
軽やかにニッコリ微笑むA。綺麗な建前スマイル。
こういうのは大抵返ってこない。神威の言う「いずれ」が永遠にやって来ないことをAは知っている。
世話を焼くのは自分で決めたことだ。見返りを求めて後から落胆するなんてカッコ悪い。だから、Aは最初から期待しない。そう、それが社畜の処世術。
「お会計は8万5,650円です」
店員さんの声で現実に引き戻された。さっき引き出した生活費のほとんどがぶっ飛ぶ。
しかし、この憎たらしい青年は財布がないから、Aが払う他ない。
「毎度ありがとうございました」
満面の笑みを浮かべた店員に見送られ、Aと神威は店を後にした。
奢ると言った手前、後で返済しろと言うのも道理に合わない。
──ま、なんとかなるか。
死活問題ではある。帰ったらすぐに大家さんへ家賃を持っていく予定だったが、圧倒的に足りない。それに明日から何食べよう。
でも、自分で選択したことの結果だ。
自分のおかげで人が助かったと考えると、悪い気分ではない。
「本当に悪かったって。地球のご飯は美味しくて、つい。いつもは自分の金だから、その時の感覚でいつもの量を頼んじゃったんだ。お金はちゃんと返すから」
神威が申し訳なさそうに顔を覗き込んできた。
本当に返ってくるとは思っていないけれど、口先だけではなくて、返す意思はあるのだとわかる。
──でも、もう会うことなさそうだよなぁ。
特殊な格好や、日光で倒れかけたところを考えると、江戸に住んでる人ではなさそうだ。
ここでのさよならが、今生の別れになるだろう。
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夢宵桜(プロフ) - 琥珀糖さん» 読みにくくてすみません…。配色を少し変えてみましたが、如何でしょうか。 (4月1日 6時) (レス) id: 77ab0362c3 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀糖(プロフ) - 色盲とかではないのですが、背景と文字の色が同系統すぎて読めません。可能でしたら変更して頂きたいです。 (4月1日 1時) (レス) id: 02d9a0ed5d (このIDを非表示/違反報告)
夢宵桜(プロフ) - 名無し5059号さん» 見えない色と見える色を教えて頂けますか? 私は色盲についての知識が浅いため、今の配色のどの部分が見えないか教えて頂けたら、対処法を考えられるかもしれません。 (2月16日 23時) (レス) @page46 id: 77ab0362c3 (このIDを非表示/違反報告)
名無し5059号(プロフ) - 色盲で文字が見えないけど対処法ありますか? (2月16日 22時) (レス) @page1 id: 427c7b5a4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy
作成日時:2023年12月13日 23時