【神威】第七師団団長の秘書様［1］

5-8 変化 ページ34

　神威はAを連れて平和な星を去る。
　自分の手は数々の星を潰してきた。引き起こしてきた惨劇を考えると、この時間のなんて牧歌的なことか。宇宙が見せた一瞬の夢のようだ。

　それに、だ。唐突にAが憑き物の落ちたような顔で感謝の意を述べてきた。
　気を張っていた状態から、表情筋が緩んで、柔らかい表情をしていた。その表情は、とても綺麗で──。

──何考えてんだか俺は。

　戦闘こそ楽しみである。強さこそ至高である。そのはずなのに。
　興味本位で変な地球人を見ているうちに、変な空気に当てられてしまったようだ。
　思い返すと、Aと出会ってからはいつもそう。なぜかAのペースに呑まれてしまう。そして、それを楽しんでる自分がいる。

　神威はポケットに手を入れて、ずっと入れっ放しの茶封筒を手でなぞる。返す機会を失ったお金だ。買い物で使おうかと思っていたが、結局出る幕がなかった。

──あ、扇子買ってあげるの忘れてたな。

　壊してしまって弁償予定だった扇子。
　仕事の電話で外のいる時にAが自分で会計を済ませてしまったから、買うタイミングを逃してしまった。
　それに、Aが契約書を破って謝罪とお礼を言った後のあの空気の中、扇子一つのために買い物を続行するのも気が引けてしまったのだ。

　返す機会はいつでもある。
　なんだかデジャブ。幸いなのは、現物がないからうっかり壊してしまう心配がないことだ。

　壊れた扇子は、元々安っぽくて強度が弱かったから、買うならもう少し高品質なものにしてあげよう。またうっかり神威が壊してしまわないように。

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