検索窓
今日:57 hit、昨日:45 hit、合計:21,835 hit

3-2 ページ15



 Aの部屋から執務室へ戻りながら、神威は懐の扇子を思い出す。

──あ、また忘れてた。ま、返す機会はこれからいつでもあるか。

 引き返す気は起きなくて、そのまま立ち去る。

──取引、か。そんなことしなくても、Aだけなら何とかして地球に返してあげるつもりだったのに。

 10万円が入った封筒をもてあそびながら、神威は気丈に振る舞う地球人の少女のことを考えていた。
 服装や態度から、裕福ではないことは伺えた。自分の不注意で大金を使わせてしまったのだから、保護してあげるくらいならしてもよいと思っていた。

 それを、恩に着せずに自分で何とかしようとするなんて。震えちゃって、あんなに弱そうなのに。
 つくづく地球人は不思議な生き物である。

 しかし、始末書や報告書を作ってくれるのはありがたいし、Aが春雨に席を置くってのが面白そうで承諾してみた。

──さて、Aを引き抜いたことが問題になるだろうから、色々と始末しなきゃなァ。

 チョロまかしても問題ない、なんてのは嘘である。
 あちらにとっても収入源である商品だ。必ず問題に発展する。

──破鳥には強いヤツがいるといいな。

 神威は不敵な笑みを浮かべていた。





「おはよう、阿伏兎。私は今、着るものがないんだけど」

 早朝、目を覚ましたAは部屋の内線で阿伏兎に通信する。
 なぜ阿伏兎か。部屋決めの会話で察しが良さそうだと判断したからだ。

「そういや姐さん、攫われて手ぶらだもんな」

 ほらやっぱり。
 江戸は夏真っ只中だった。数日前から着ている服はあまり着たくない。

「つっても、第七師団にゃ女物の服なんてねぇぞ。どうすっかなー」

「ですよねー」

「貸すにしても、サイズと体型がなぁ……いや、団長のならギリいけるか?」

「上司の服を着せるなんてセクハラだと思いまーす!」

「オイオイ、人がせっかく考えてるってのに」

 阿伏兎の提案も尤もである。
 Aの身長から考えたら神威の服でも充分大きいが、他の屈強な団員に比べれば誤魔化しが効きそうである。
 夏に数日着た服か、神威の服か。究極の選択である。

「う〜〜ん、わかった。神威の借りるしかなさそうだね」

「団長には俺から言っといてやるよ」

「ありがとう。ここ、乾燥機ある?」

「あったと思うぞ」

「明日から毎日洗濯しないとな」

「今の仕事が終わったら、団長に買い物連れてってもらえよ」

「絶対そうする」

3-3→←3.当事者でも知らないことはある



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (32 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
49人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

夢宵桜(プロフ) - 琥珀糖さん» 読みにくくてすみません…。配色を少し変えてみましたが、如何でしょうか。 (4月1日 6時) (レス) id: 77ab0362c3 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀糖(プロフ) - 色盲とかではないのですが、背景と文字の色が同系統すぎて読めません。可能でしたら変更して頂きたいです。 (4月1日 1時) (レス) id: 02d9a0ed5d (このIDを非表示/違反報告)
夢宵桜(プロフ) - 名無し5059号さん» 見えない色と見える色を教えて頂けますか? 私は色盲についての知識が浅いため、今の配色のどの部分が見えないか教えて頂けたら、対処法を考えられるかもしれません。 (2月16日 23時) (レス) @page46 id: 77ab0362c3 (このIDを非表示/違反報告)
名無し5059号(プロフ) - 色盲で文字が見えないけど対処法ありますか? (2月16日 22時) (レス) @page1 id: 427c7b5a4d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy  
作成日時:2023年12月13日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。