30話 ページ30
静かになった携帯をポケットにしまい、Aは地面で丸まっていた黒猫に視線を戻す。
猫は一点を見つめてゆったりと体を立ち上げると「にゃー」と鳴いた。
視線の先には全身を黒で包んだ人物が住宅の角から姿を現したところだった。
Aが彼の元へ向かうと、黒猫もその後を追っていく。
足音に気付いた相澤はその場でピタリと歩みを止めた。
「おかえりなさい、消太さん」
「ただいま」
駆け寄って来た一人と一匹を交互に目で追い、相澤は「こいつと遊んでたのか」と黒猫を軽々と持ち上げた。
重力に逆うことなく、猫の体は背丈分長々と伸びる。
「消太さんが帰ってくるまでに家に戻ろうと思ってたけど、時間忘れちゃってた」
「上着を羽織ってるとはいえ、日が沈めばまだ冷え込む時期だ。今日はここまでにしておけ。風邪ひくぞ」
「はーい。また明日遊ぼうね」
黒猫は相澤の手の内からするりと抜け出して軽やかに着地した。
寂しげに尻尾を揺らしていたが、すんっと鼻を鳴らすと仲良く自宅に向かう二人を追いかけた。
アパートの階段を上って同じデザインの扉を来た道から三つ数える。
隣の住民は可愛らしい花や観賞用植物を扉周りに飾っているが、相澤は「わざわざ見に来る奴は居ないからな」と一切手を加えないまま年月が経っていった。
扉を開けると同時に振り返った相澤は、Aの足元で当たり前に座っている黒猫の姿に口を尖らせた。
「……おい。なんか着いてきてるぞ」
「え？ ほんとだ。ここまで着いてくるなんて珍しいね。お腹空いたのかな」
猫のおやつを取りに行く様子を相澤は腕を組んで見守る。
ちらりと足元に目を向けると、黒猫は満足気に尻尾を左右に揺らして「にゃあにゃあ」と鳴き続けていた。
Aにだけ、あからさまにアピールをする態度はいつ見ても猫らしからぬ行動で。
変に懐かれてんな、と冷めた目を送る相澤。その隣にAはササミの袋を手にして戻った。
黒猫に差し出すと、礼の代わりに一つ鳴いて階段を降りていく。
「満足したのかな？」
「放っておけ。早く入るぞ」
「冷たいなぁ」
猫好きな割にあの黒猫に対して冷たく当たる言い草は今に始まったことではなかった。
靴を脱ぐ背後で扉の閉まる音が響いた。
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やおや(プロフ) - きゃーぽんさん» ご感想、応援をありがとうございます。お楽しみ頂けるお話をお届けできるよう努めますので、今後もどうぞよろしくお願いします…！ (2021年4月20日 0時) (
レス) id: 889f105f89 (このIDを非表示/違反報告)
きゃーぽん(プロフ) - めっちゃ面白いです！頑張ってください！ (2021年4月5日 16時) (レス) id: 0aee990b2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やおや | 作成日時：2021年1月29日 2時
