重力、夢中力…弐｡【中原中也】

(75)第二次衣装攻防戦 ページ36

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『待って待って本当待って。何でそうなる？』

「男の正装って云うとこうなんだよ」

『厭だよ嘘だろ。其れは絶対厭だ』



黒の燕尾服に身を包んだAが、掛けた伊達眼鏡の位置を直しながら早口に云った。

今日は任務当日。今は其の準備と云った所だが、此処で1つ問題が発生する。



『何で髪の毛オールバックにしなきゃいけないのよ！』

「正装だって云ってンだろ！」

『今時多くないよ其ンなの!!』



ヘア用ワックスを片手にした中也に距離を取りながらAは水色の蝶ネクタイを着ける。

中也は既に支度が終わったらしい。
Aより明るい色の髪は綺麗に撫で付けられていた。

ジリジリとお互いに睨み合う2人。



「観念して此方に来い」

『何が何でも絶対厭だ』

「時間無えんだよ！」

『知らないよ其ンな事！大体ね、アンタの髪型(其れ)も変だよ！』

「ああ?!」




とうとう額に青筋を浮かべた中也が間に挟まれたデスクを飛び越えようと手を掛けた時、Aがもう1度口を開いた。




『何なら何時もの方がカッコイイわ！似合わない格好しやがってこの阿呆野郎！』

「……は？」

『ひ…？』

「いや違えよヤメロ」




唐突に『カッコイイ』と云われた中也が間抜けな声を漏らす。

何故か熱くなる頬に疑問を抱きつつ、其れを悟られない様に頭をぐしゃぐしゃと掻いた。




『あーあ…中也の髪も元通りだね〜。て事で、良いよね？』

「っ、もう勝手にしろ！」

『勝者我なり。ハッハッハッハッ…』

「うぜぇ!!」




ドサッ、と乱暴にソファへ座った中也。

Aは鏡で自分の姿を確認している。


もう直ぐ午後11時。

久し振りに此の2人(タッグ)が、夜を揺るがす。



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