きっと其の六 ページ6
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拠点へ戻りシャワーを浴びていると、先程の擦り傷が案外痛む。後で絆創膏でも貼っておこう。
髪を乾かして再び身支度を整えた頃には、もう昼近くになっていた。
昼ご飯はコンビニで適当に済ますか、と財布を持って出ようとすると、入り口に誰か居る。
「芥川さん、お疲れ様です」
「嗚呼」
相変わらず無愛想な人だ。
樋口姉さんも苦労するな、と思った。
コンビニでオシャレにパスタサラダとパンを買い拠点へ帰ると、入り口に先程とは別の人が見えた。
「お疲れ様です、幹部」
「おう、お疲れ。今日はよく会うな」
「そうですね」
未だ2回目だが、これまでがこれまでだったので私も中原幹部と同じように感じた。
中原幹部は丁度一服を終えて中へ帰ってきたところらしく、途中までご一緒させていただくことになった。ふむ…想像通り、周りからの視線が痛い。
「そうだ、コレやる」
「え…いや、悪いですよ」
唐突に差し出された手は缶珈琲を持っていた。
昨日から色々と貰ってしまっているのも加味されて尚更申し訳無く思い、胸の前で手を左右に振った。
「間違えて買っちまったンだよ。大人しく受け取れ、要らないなら捨てろ」
「じゃあ…ありがたくいただきます…」
缶を受け取るときに少し指先が触れて、不覚にもドキッとした。
学生でもないのに莫迦莫迦しいとは思うが、矢ッ張り気恥ずかしくて俯く。
そんな私の心情なんて1ミリも知らないであろう幹部様がチラッと私の手を見た。
「手前、その親指どうしたンだ?」
「実は今朝の任務の時に、撃鉄で」
「ああ、擦っちまったのか」
缶を持った侭親指を見せると、絆創膏のガーゼ部に一寸だけ血が滲んでいた。
こんなの掠り傷にも入らないのを判っているのだろう。幹部はそれ以上何も云わなかった。
沈黙が気まずくて、今度は私から話しかける。
「幹部はブラック派なンですか?」
「そうだな。甘いのはあんまり好かねえ」
「なるほど」
右手にある缶には『微糖』との文字があった。
そうこうしているうちに突き当りまで着き、中原幹部は左へ、私は右へと曲がった。
「またな」と片手を挙げたその仕草まで恰好良くて、コソコソ楽しそうにと噂する女性たちの気持ちが判る気がした。
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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時