【文スト】きっと純愛 (ページ40)

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きっと其の四十ページ40

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彼奴が居ない1日はどこか味気無く、退屈だった。

この感情が『寂しさ』や『恋しさ』という名前だということは知っている。
寂しいのだ、彼奴が居ないと。
恋しいのだ。彼奴が＿＿AAという彼女が。

だから俺は、素直にAの昇進を祝ってやれなかった。だって離れたくないから。少しでも近くに居たいから。

手短に挨拶を済ませたAはその日、"黒蜥蜴"を後にした。
異動を決めたとの話を聞いたのは5日前。Aの休み明けだった。

「……そうか。お前が決めた事ならもう何も云うまい」爺さんはそう云った。

皆きっと同じ意見だ。抑々、首領がAに選択肢を与えた時点で俺たちに止める権利なんて一切無い。

元々、Aは黒蜥蜴の平(ひら)をやっているには惜しい人材だった。俺だっていつ十人長の座を奪われても可笑しくなかった。

だから幹部直下に据えられた所で驚きも何もない。急だったから、理解が追いつかなかっただけで。

……否、違う。"理解したくなかった"だけで。

いつからか焦りばかりが俺を襲っていた。
いくら此方から手を伸ばしても、相手が此方へ手を伸ばしてくれなければ、互いの手が届くことは無いと、痛いくらい思い知ったから。

だから今から起こす一連の行動も全部、その『焦り』のせいにしようと思った。その方が、些か傷口は浅いかもしれないから。

「A……本当に、行くのか」
「……行くよ。もう決めたから」

廊下で引き留めた彼女の瞳には迷いがなかった。

「そんな深刻な顔しないでよ、別に組織を辞めるわけじゃないんだよ？」
「っ…それでもっ、俺は厭なんだよ」

一言零せばもう止まらない。

「一寸前までは一緒に任務へ行って、一緒に戦って、一緒に帰って、一緒に書類片付けて、他愛ない話とかくだらない口喧嘩とか……色々…」

Aは依然として真剣な目で此方を見ている。

「お前が、どんどん遠くなって。それが、すごく、辛い」

情けない事に、右目から一筋の涙が頬を伝った。

「俺、好きなんだよ。Aのこと」

絞り出すように云った一言は心臓を圧迫する。もう呼吸をするのも苦しかった。

「立原……」
「ほ、本当に悪りィ、急にこんなん……中原幹部の所でも頑張れよ。じゃあな！」

きっとこんな強がりバレバレだ。
困惑した顔のAから目を逸らして、手洗いへ向かった。

こんな顔、誰にも見せられない。

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