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きっと其の二十 ページ20

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例の死霊魔術師(ネクロマンサー)による連続襲撃事件から数日。A、中原、梶井の3人は通常業務に戻り、各々に与えられた仕事をこなす日々へと戻っていた。
あの夜の出来事が未だに現世のものとは信じ難いが、ポートマフィアという異能所帯にいる身としては其処まで気にする事でもなかった。


「そういやA、昨日事務員の女が探してたぞ」
「何、仕事の話?」
「いや?居ねえって云ったら『また来る』って帰っちまった」
「そうなんだ」

仕事の話じゃない。なら私情?
私情で絡む事務員なんてそう多くない。というか殆どゼロだ。
事務員には女性が多いから、『女性が探していた』からといって不思議に思う事はない。然し、何だかとっても厭な予感しかしない。心当たりがあるからだ。

中原中也幹部である。

彼は先日から私のことを下の名前で呼ぶようになった。廊下等でその様子を見た人もきっと少なくない。
これがもっと地位のある人間なら、きっと誰も文句は持っても云わなかったと思う。
それがどうだ、自分のような一介の構成員だったら。不満は募り、感情をぶつけることも容易い。

まあ別に他人からの嫉妬心を一々気にする質ではないので、どうでも良いと云えばどうでも良いのだが。
正直面倒臭い。かなり。


「書類を提出しに行ってくる」
「あ、ついでにコレも」
「500円」
「金取るのかよ?!」

立原の分も受け取り、部屋を出る。
事務室までそう遠くない道のりを、少し重い足で進んでいった。

然るべき所へ提出し終えて部屋の外へ出ると、見事にフラグ回収に成功した。嬉しくない。

「少しお時間よろしいですか?」
「すみません、よろしくないです」

ニッコリと微笑みながら断ってみせるが、此処で帰れれば楽なものだ。

「本当に少しだけなので」
「はあ…なら、此処で聞かせていただいても?」
「ええ」

彼女たちから笑みが消える。何を云われるのか、どう云い返そうか考えていると、目の前の1人が口を開いた。

「……あの…コレ、クッキーなんですけど、良かったら食べてください!」
「え?」
「実は、この前Aさんが射撃訓練していた所を見まして…」
「す、すごく、カッコ良かったです…!」
「ええ…?私?」
「はい!」
「あの、では、これからも頑張ってください!」


そそくさと去っていく彼女たちの背を、素っ頓狂な顔をしたAは黙って見送ることしかできなかった。


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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時

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