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きっと其の十九 ページ19

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早く出ねえと丸焦げになんぞ、と中原の冗談めいた声が響く。
探偵社の2人はまだ呆然としていた。

「惜しかったな」
「どこがですか」
「ありゃ死体を避けてなきゃ中ってたぞ。まあ、避けないで怪我したら怒鳴ったけどな」
「……優しいですね、幹部は」
「気のせいだろ」

気のせいなんかじゃない。この人はとても強くて優しい人だ。たぶん、仲間なら誰にでも。


「……行くぞ、敦」
「あ、はい。…良いンですか?国木田さん」
「良いも何も、もう仕様がないだろう」

そう踵を返した2人を見送って、Aたちも地上へ出ようとした時だ。


「……ふふ…ははは、アハハハハハハハハハ!!!」


床に伏していた男が狂ったように笑いだした。こめかみを撃ち抜いたはずなのに、確実に殺したはずなのに。

頃合いを見て地下へやって来た梶井までもが言葉を失った。

だが、沈黙の空間が続いたのは数十秒だった。


「そうこなくちゃなァ……!」
「これで綺麗な死体が手に入るねェ!」

好戦的に鼻で笑う中原幹部と、マッドサイエンティストめいた発言をする梶井さん。
お二人共頼もしすぎて完全に置いて行かれた。

コンクリートが唸りを上げて敵へ牙を剥く。
あっという間に、男は動きを止めた。


「……恰好良い…」
「ったく…自分まで死体(ゾンビ)化たァどういうわけだ……」
「研究しがいがあるねェ」
「何か云ったか、A?」
「あ、いや……え?」

今、サラッと自然な感じで『A』と聞こえたのだが、遂に耳が可笑しくなっただろうか。

思わず『恰好良い』と呟いてしまったことなんて秒で忘れるほどの衝撃が走った。


「やっぱAよりもAのが呼び易いな。これからそうするわ」
「はあ…」
「んだよ、文句でもあんのか」
「そういうわけじゃないです…!」
「Aちゃん照れてる??……痛っ!」

無言で梶井さんの足を踏み付ける。その様子を見て中原幹部が少し笑った。

「ほら、とっとと帰ンぞ」
「はい」
「あああ待って、大事な研究資料を忘れる__」


……名前を呼ばれるのが、こんなにも嬉しいなんて。



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作者名:ヤマダノオロチ | 作成日時:2018年2月5日 0時

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