シオン ページ10
一瞬何が起きているのかわからなかった。自分は確かに知らないビルからこの身をささげたのに。けど、もしかしたら夢でも見ていたのかもしれない。
自分がここまで愚かだと分かって藤ヶ谷は手に顔を埋める。けれどその身体は、尋常じゃないほど汗がべったりと染み込んでいた。
ここまで寝ている間に汗が出るだろうか。藤ヶ谷は不思議に思ったがこの気持ち悪さから解放されたいためお風呂に向かう。
お風呂は静かな空間で個室なため、人はついついお風呂場で考えを巡らせるのだった。藤ヶ谷も頭を冷やしながら考えを巡らせる。
シャワーの音と水が滴る音が鳴り響くが雑音も聞こえないほど彼は焦っていて、壁に手をつきながら考える。
さっきのは本当に夢だったのだろうか。その割にはリアリティーが高すぎる。俺は死んで生き返ったのか?少しファンタジーが混じった思考が思い浮かぶ。だが、そんな事は現実世界ではありえなくて、きちんと自分は生きていた。
ふと目の前にある下半身サイズの鏡を見る。自分の顔は酷くやけに老けているように見えた。藤ヶ谷は自分と見つめ合っていると目から頬に水が滴る。それはシャワーのものなのかわからなかった。だがとても胸は苦しく、辛い。
さっきの夢が何としてもこの世界に北山はいない。空っぽの星にいるのだ。それが悔しくてたまらなかった。次は涙だと分かるほど藤ヶ谷は号泣した。足がもたなくなり座りこむ。
F「……もしもこの時戻せるなら、もしも言葉を交わせるなら、俺は幸せなのに……」
この望みは一生叶うわけないのに藤ヶ谷は本気で願った。もちろん誰も叶えることもできないし、誰にも届くことは無かった。
虚しい気持ちがただ心に突き刺さるだけなのに。藤ヶ谷の目は本気だった。けれど当たり前のように何も起こるわけは無く、目の前で水が飛び交うだけ。
この時間が馬鹿馬鹿しく思えてきたのか藤ヶ谷は自分を笑った。もしかしたら心の奥では北山の死を認めていたのかもしれない。けどそんな思いに気付きたくなくて、グッと奥にしまい込んでいた。そこに認めたくない気持ちを上書きをして、本当に愚かだったと気づかせられる。
もう、北山は帰ってこないのだ。
何か吹っ切れたのか藤ヶ谷は今までで一番いい顔をしていた。
よっこらとその場から立ち上がり風呂場を出た。身体を軽く拭いて荒々しく自分の髪を掻きむしりながら乾かす。服を着てリビングに戻り、藤ヶ谷は再びベットに飛び込む。
F「……四ヶ月前に戻りたい」
その言葉は無意識だったのだろう。完全に吹っ切れていないのか、つい言葉に発してしまった。
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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時