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ユキヤナギ ページ32

なにも変わらない、何も起きない日常は藤ヶ谷を苦しめた。何も無いからこそ、悲しい。

あの告白の日から、一向に返事を先延ばしする北山に藤ヶ谷は焦っており、「アピールしなきゃ」とキングと呼ばれる彼のプライドが燃え上がっていた。

そこから恥を見せながらも急に近づいたり、離れたり、話したり、素っ気なくしたり、藤ヶ谷はいろんな事を試みる。

そこで北山に誘いを持ちかける事もあり、ある時は正当な理由で断られたり、暇なときは普通に来てくれる気まぐれな彼に藤ヶ谷は少し混乱の気持ちが芽生えていた。

それでも藤ヶ谷の気持ちは変わっておらず、過去でも前でも北山が堪らなく好きだと伝わってくる。

北山はそんな藤ヶ谷をどこか遠い目で見ているようだった。けれど決して藤ヶ谷を拒んだり、突き放す事はしなかった。そんな彼は藤ヶ谷に対してどういう感情を抱いているのか分からない。



そんなぎこちない距離が続いたまま、月日は過ぎていき7月に突入していた。

今日は2021年7月6日。明日は七夕だった。そんな縁起のいい日が近づいており、なにやら日本中はざわざわと騒いでいる。それは七夕祭りの準備があるからだ。

七夕は織り姫と彦星が一年に一度に出会える日なので、そこには恋愛が絡んでくる。恋人と過ごすにはぴったりな日だ。

藤ヶ谷は廊下に貼ってあるポスターを眺めている。そこには明日大きな七夕祭りが行われると記されていた。これは一気に距離を詰めることが出来ると藤ヶ谷はひっそりと味を占めていた。

「北山の浴衣はさぞかし可愛らしいんだろうなぁ」と勝手に浴衣姿を想像して、藤ヶ谷は天井を眺めながら上の空状態になっている。

今日は数え切れないほど行った、藤北の撮影日だった。いつもの通りの楽屋だったが、藤ヶ谷はいつもだったら決して座らない椅子に北山の斜め前の席を律儀に座ってた。

腰を降ろしていた藤ヶ谷は斜め下をずっと見つめながら太ももの間に手を突っ込んでもじもじしている。そんな藤ヶ谷の様子を伺いながら、北山はそわそわしながらも見てない振りをしていた。

  F「……なぁ、」

虚ろな目で背けながらも藤ヶ谷は重々しい口を開いてゆっくりと北山の事を視界に映す。困り眉で少し潤んだ目は小動物のように可愛らしく見えた。

そんな藤ヶ谷を目のあたりにした北山はぐっと息を呑んだ。緊張気味に顔をこばわらせ藤ヶ谷を見つめ返す。

  K「……な、なに?」

小さい子供と話しているかのように優しく首を傾げた北山見た藤ヶ谷は、逆に心を射抜かれたようで目の前が眩しくなったかのように瞬きを何回も繰り返した。

クチナシ→←紫のアネモネ



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作者名:supia | 作成日時:2021年9月23日 1時

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