《悲報》姉さんが嫁入りしちゃう…！【ヒプノシスマイク】

オネーさんがさんじゅーににん ページ36

＿「わぁー！ ドレスすっごく似合ってるよ！」

「ありがとう」


　お化粧もヘアメイクも済み、用意された豪奢な椅子に座る花嫁。
　あまりクセのない顔立ちなのも相まって、よく似合っている。

「三人はまだお着替え中だよー。 身長もおっきいし、よく似合ってたよ」

「へー。 三人ともかっこいいもんね」


　へらっと力なく笑うその姿は、あまり幸せそうではない。
　向かいに椅子を引っ張り出して、それに腰をかける。
　足をぶらつかせながら、「ドレス、イヤ？」と訊いてみた。


「ううん。 こんなに素敵なドレス、一生に一回と着れないよ」

「ま、ボクデザインだからね〜！ ……じゃーあ、何が不安？ 結婚？ それとも、あの男？」


　花婿の存在を示唆すれば、Aの瞳の奥が微かに揺れる。
　でも、それではない気がする。 決定力というか、後一歩が足りない。 そんな勘。


「それじゃーあ……、一郎達のこと？」

「っ！」


　まるでのどに何かが詰まったかのような驚きようだ。
　やっぱりこの四人は、すごく分かりやすい。
　最初の従業員のオネーさんの嘘にも気付かないし。 いや、そんなことに気を回す余裕がないからかもしれない。

　Aは分かりやすくふいっと目を逸らし、投げ出された視線は縋るように何かを探してる。


「好きなんでしょ？ 『そういう意味』でさ」


　下唇をきゅうっと噛み、涙を我慢するその姿は被虐を求めてるようにも見えた。
　人が触れて欲しくて触れて欲しくて、でも奥に隠しこんでしまう秘密を暴くのって、なんでこんなに胸を高鳴らせるんだろう。

　その硬く結ばれた唇からは、発言の意思を感じない。
　ボクが何か言おうとすれば、びくりと肩を震わせる。


「ここにはボクしかいないし、いいよ。 三人のことが好きなんでしょ？ んで、Aも三人に好かれてることを気付いてる」


　身近にこんな面白い関係があるなんて、思っても見なかった。
　悲愴な顔を浮かべる花嫁は、それだけでとても絵になるほど綺麗だ。
　ボクの知らない深い事情がごっちゃごちゃに絡まって、ほどけなくなってるんだ。



「……そうだよ。 最低、だよね」


　低い、低い、声。
　こんな状況なのに、ボクの胸は恋に落ちたかのように、どくどくと脈を早くする。
　酸素が過剰に供給され、頬が軽く染まった気がした。

　この子、ただ可愛いだけのオネーさんじゃない。
　誰よりも人間らしい女性だ。

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