《悲報》姉さんが嫁入りしちゃう…！【ヒプノシスマイク】

姉君が二十四人 ページ28

「今日はラップバトルをする訳では無い」


　今にも小官をとって喰おうとする山田一郎をなだめるように、両手を広げ上げる。
　戦意がようやく落ち着いたのか、彼の瞳にはいつものように、穏やかな兄の視線が宿った。


「一郎、大丈夫だよ。 今日はよろしくお願いします」


　簡素な自己紹介と共に謝罪を添えられるが、特段怒りに触れた訳でもない。
　頭を上げるよう言うと、彼女、Aはようやく顔を上げた。


「送り先は中王区の大病院まで、ですよね？」

「はい」


　じゃあまたすぐ来るね、と三人に別れの挨拶をしている。
　先程までの警戒に塗れた瞳とは打って変わって、間の抜けた、少し情けない面構えの三人。
　まさに『愛されている』。


「手ェ出したらぶっ殺す」

「依頼により金銭が発生しておりますから、その辺は信頼していただけると」


　銃兎の胸ぐらを掴み、睨みをきかす少年を、Aが「二郎！」と窘める。
　ぱっと手を離され息苦しさから開放された銃兎は、忌々しげに「ンのクソガキィ……っ」と小さく呟いた。


「ええー……。 では、Aさんは私達が責任を持ってお送りしますね」


　ごほん、と一つ咳をし、銃兎は人好きする薄っぺらい笑顔を浮かべた。
　小さくまとめられた荷物を預かり、駐車場に向かう。

　背中に突き刺さる視線は、きっとあの三人のものだろう。
　ここまで明確な殺意は海軍に入っていた頃を思い出させる。

　口で語らずも、あの三人がどれだけ強く依存しているかひしひしと分かった。


「ごめんなさい。 あの子達、少し過保護で……」

「いやいや、平気ですよ。 若いうちは少しやんちゃなぐらいが丁度いいですから」


　ネクタイを直していた銃兎に、申し訳なさそうに謝罪している。
　過保護、ということは気づいているようだ。

　銃兎は運転席、小官は後部座席にAと並んで座る。
　行儀よく背筋を伸ばして座る姿から、育ちの良さが滲み出ている。


＿「通行証の確認をお願いします」


　高い壁で外と区切られた中王区。
　無駄に派手な門に向かうと、女性が通行証を求める。
　Aが「失礼しますね」と窓を開け、女性に「私です」と告げた。


「山口様でしたか。 そちらの男性方は？」

「護衛ですよ。 神宮寺さんの計らいで」

「相変わらずの寵愛ですね」


　くすっと笑いながら、どうぞと門が開いた。

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