【銀魂】沖田隊長、約束をしましょう【沖田総悟】

追い払うために　沖田side ページ33

…見蕩れそうになるけれど。出来ることなら俺はこの戦いの傍観者で、Aが誰かに立ち向かうときに見せるこの表情を。動きを。剣筋を眺めていたかった。ただそこらへんに突っ立って、コイツに見蕩れていたかった。けれど、そういう訳にもいかない。コイツと今やりあっているのは俺で、コイツは俺に真正面から挑んで、ぶつかってきているのだ。きっと、コイツの中の勇気や度胸、色んなものを総動員させて、俺の前に立っている。逃げることなんて眼中に入れない、確かで切実な強さを持って俺に竹刀を振るっている。ならば俺は。俺が知らない間にこんなにも腕を上げ、自身を磨き、強くなっていたAに答えなければならない。さっきまで見くびっていたことへの償いのように、俺は竹刀を握り直す。新たに戦意を固めるように。

Aは声を上げながら。時折踏ん張るように苦しげな声を小さく漏らしながら、何度も何度も仕掛けてきては俺にそれを跳ね返され、それでも食らい付いてくる。がむしゃらに。けれど的確に無駄のない動きで俺を攻めてきている。やはり、流石と言ったところか。たしかコイツも以前暮らしていたところの道場で、神童と呼ばれていたそうだし、幼い頃からの鍛練も、今に繋がっているのだろう。

いつもいつも、俺はコイツに。Aに驚かされてばかりだ。


…そして、惚れ直させられてばかりいる。


『だって私は……貴方の部下ですから』

『斬りこみ隊長である一番隊隊長の部下は、ただのちんちくりんじゃ務まらないでしょう？』

『…私は、自分のことは自分で護るし、…きっと、…絶対に、貴方のことも護ります』


『私は、貴方のことを護りたいんです』


…変わらない。もっと強くなると。俺の隣で、俺のことを護らせてくれと。そう震えた声で言っていたあの時と、変わらない。いや、あの時よりも更に強く、それを望んでいる。それを望み、俺がそれを恐れていても。コイツが傷付くことに勝手にビビってても、それを飛び越えていこうとする。

その恐れを俺から追い払うために、きっと言葉を俺にくれている。


強くて、重たくて、真っ直ぐで、綺麗で。俺は俺を見据えるその目に、また目を奪われて、心臓の辺りを締め付けられて。また、コイツに落ちていく。堪らなく抱き締めたくなる。

何度も何度も剣をぶつけ合って、それと同時にAの心がぶつかってきて、それを受け止めて。


勝負がつく寸前。勝敗が分かれるその瞬間。俺は思う。



──これは、俺の敗けだ。

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