真綿の策略【宮侑】

後押し ページ16

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　この女医はまだ俺たちとそう変わらないような年齢で、話しやすくノリもいい。だが仕事はきっちりとこなしたいらしく、恐らく意識してオンオフをかなりくっきり区別している。
　俺以外には、の話である。

「なんなん、『処置中は先生らしく』やなかったん！？」

「宮くんは生意気だからダメ。ていうか、ちゃんと仕事はこなしてるじゃん。より私らしい方を、ってだけ」

　そうなのである。何と言うか、彼女は自分に課す「先生らしく」のハードルが高い。生徒に敬語を使う教師というのも、今時珍しいだろうに。

　いつのまにか北さんと朝原さんは奥に引っ込んでいて、何か小さく話声が聞こえる。この保健室にはベッドや冷蔵庫なんかのほかに大きな丸机やソファもあって、そのあたりにいるのだろう。衝立があるので、詳細は分からない。

　あちらの声がよく聞こえないということは、音量を絞ればこちらの話声もあちらには聞き取れないだろう。

「なあ、せんせ」

「うん？なに？」

　秘密の話をする子供のように声を潜めれば、先生も小さく答えた。

「北さんと朝原さんが生き別れの兄妹だって言うんやけど……マジ？」

　先生の瞳が見事にまあるくなる。ぽかん、という表情だ。やはりあれは嘘だったのか、それとも単に彼女は知らされていなかったのか。

「……あーうん、そうだよ。まじまじ。似てるでしょ、あの二人」

「えー、やっぱりそうなん！？」

　口から飛び出したのは肯定。「先生らしく」という抽象的なんだか具体的なんだかよく分からないモットーを掲げている人の言葉だ、信じていいのだろう。「嘘を吐くこと」が「先生らしい」とは思えない。
　そもそもあの北さんと朝原さんだ。隣席生活も約一か月、彼女が見た目よりずっと堅物ではないことを知った。だがそれは予想よりという話で、朝原さんは真面目な人である。茶目っ気こそあれ、自分からふざけるているのを見たことはない。
　そして何より、我らが主将。彼こそ悪ふざけというものから対極の存在に思えた。無駄なことはせず、自分にとって必要なことを淡々とこなす。俺の知っている北さんは、そういう人だ。

「……えらい情報を握ってもうた」

「わー、すごい顔。ゲス顔というか困惑顔というか……。はい、処置終わり。さっさと部活に行きなさい」

　湿布やら絆創膏やらを張り終わった先生が早く出ていけのジェスチャーをする。俺は廊下の飛び出した。もちろん、目的は部活というよりも情報の共有である。主に角名。

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