ココアはぬるくなった ページ19
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制服のズボンのポケットに幾らか小銭が入っていることを思い出して、道中の自動販売機でココアを買った。朝原さんは先程からずっと俯いている。
「あそこ座ろ」
校舎裏はいつも人が少なくて、今のような部活開始時間も近づいた放課後ならなおのことだ。ここなら落ち着けるだろうとベンチに座らせて、買ったばかりのココアを握らせる。俺も隣にどかりと腰を下ろした。
「悪いよ、これは宮が飲んで」
「ええから。俺、あんまし甘いの得意やないし」
なんでもバクバクすさまじい勢いで食べる片割れと違って、俺は食事の好き嫌いが割とはっきりしている。甘いのはそこまで嫌いではないが、生クリームやココアみたいなまとわりつくような甘ったるさの類はどうにも好きになれなかった。だから、このココアはそもそもそのつもりで買ったのだ。
「……あの、宮には謝らなくちゃいけないことがありまして」
「おん。なに?」
「私と北さんが生き別れの兄妹だ、というのは真っ赤な嘘なの」
やっぱりかという納得が半分、嘘だったのかという驚愕が半分。どんな顔をしたらいいのか分からず、こちらを見られないらしい朝原さんのつむじを見下ろす。彼女はぎゅう、とココアの缶を握った。
「お友達をだますなんて……。本当に申し訳ないと思ってる」
弁解するわけじゃないけど一応説明をさせて、と朝原さんが唸るように言う。俺はただ、無造作に了承した。
経緯はこうだ。北さんと朝原さんが二人きりで保健室にいることに動転している俺を見て、朝原さんは何か面白くなってきてからかってやろうと考えたらしい。ただ、北さんに振ったら「実の兄妹」という思いもよらない設定がわいてきて、咄嗟に話を合わせたと。
そして、想定したよりも俺はだまされやすく、コロッと信じてしまった。北さんはノリノリで、朝原さんは今更嘘だと言えずにどんどん設定をつくっていったらしい。
「先生が帰ってきた時、二人で衝立の後ろにいたでしょう。あの時どうしましょう、って言ったんだけどおもろいから暫くこのままでええやんって……」
「ほんま?それ、北さんが言ったん?」
こくりと朝原さんが頷く。そういえば、三年の先輩方は事あるごとに信介は案外ノリええんやでと言う。本人は否定も肯定もせず、俺たちは揃って半信半疑なのだが。というか、いまいち信じられないのだ。今だって、後輩の純情を弄ぶなんてと俺の思考は微妙に現実逃避にシフトチェンジしていた。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時