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「それは?」
「呑んだよ」
というより、否定も肯定もしなかった。だから多分、肯定だと捕えられているだろう。
それでもいい。だって治くんは、「彼女を作らなかったら」と言ったのだ。「彼女が出来なかったら」とは言っていない。
「治くんはモテるじゃん。バレンタインとか卒業あたりになると告白も増えるだろうし、大体卒業までまだ約ニ年あるんだよ?」
出来ないわけがないよね。これは淡い期待なんかじゃない、確信だ。
「ニ年もあれば、流石に面倒に思うでしょ。私なんてどうでもよくなるよ。そこに可愛い女の子が告白してこようものなら、きっと」
二人が思いっきり引いた顔をする。げんなりとしたコメントも、今なら褒め言葉だ。
「うわー……一瞬でそこまで考えた上で拒否しなかったんだ……」
「悪女とは思っとったけど、ないわ。お前、ほんっとないわー……」
「ほんとに、なんでこんな女が好きなんだろうね」
自分に言い聞かせるように、一字一句をなるべくはっきり発音する。治くんが私を好きになってしまったこと自体がイレギュラーなんだ、そう思ってしまおう。それが彼に対して失礼だと知っていて、絶対にしたくないことだとしても。
「私ももうあとには引けないね。そうでしょ?」
「ドMなんだかドSなんだか」
「はいそこうるさい。卒業式のあと、絶対泣いちゃうから慰めてよね」
深い深い、それこそ運動部で鍛え上げられた肺活量をフル活用したようなため息を、角名くんが吐く。チベットスナギツネみたいなジトっとした目線で、こちらを見つめている。
「で、守屋さんはどうするのさ」
「そんなに見つめられたら照れちゃうな」
「治にさあ、新しい恋探せ〜って。で、自分は?」
茶化そうとした目論見は、見事に玉砕。角名くんは勘がいいらしい、確信を突いてくる。私は黙り込むことしかできない。
侑くんが角名くんの言いたいことを理解したのか、は、と間の抜けた声を出す。
「お前、それはずるいやろ!」
「わ、私だってそれくらいできるよ! ほら、えっと……」
ナントカくんってかっこいいよね、みたいな。そういう、私みたいにこじらせてない女の子が噂してそうなお話。まったく思い浮かばないことに気が付いて、私は唇をかみしめた。
「無理だって」
「うう」
少しの沈黙のあと。仕方ないなあ、しゃあないなあ、と二人が声を合わせる。精々たくさん泣きなよ、と私の頭をつつく二本の指に、もう泣いてしまいそうだった。
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さかき(プロフ) - mimiさん» 話数的にあと一話だけなら書けそうです。内容によっては私に向いてないかもしれないんですけど、もしよかったらリクエストとかありますか?あるようでしたらボード?にお願いします (2019年9月19日 7時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初コメ失礼します。きついです、この作品まだまだ続いて欲しいです…( ; ; )本当に2人とも可愛くて… (2019年9月19日 2時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 瑞稀さん» やったー!好きとか可愛いとか言って貰えて嬉しいです!治は甘え上手なイメージがあります笑番外編も楽しんで貰えたら幸いです! (2019年9月18日 23時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - あぁぁぁ!!!めっちゃくちゃ好きです!!!番外編も嬉しいですありがとうございます!!治くん甘えた可愛すぎて… (2019年9月18日 18時) (レス) id: be8945b53e (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - まゆ。さん» おつありです!満足いただけたでしょうか。治で書くかどうかは分かりませんが、書きたいネタはいっぱいあって私自身ワクワクしてるので、よかったらまた読んでやってください!お粗末さまでした! (2019年9月18日 16時) (レス) id: cb48af79f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年8月9日 17時