7話 ページ8
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初めはとんだ間抜けな奴が来たと思っただけだった
夕方ごろ急にそこまで交友の無い商人から珍しい本が入ったから会食がてら渡したい、と声をかけられた
この商人に本を探している事も話した事も無いし、大賢者が不在の今一時的に権力を持ってしまった俺に教令院の奴らが媚を売るなら理解もできるが、彼は普段教令院とも関わりもないただの商人だ
探りを入れてみれば、どうやらこの商人も誰かの頼みの様だった
そこで、裏で糸引く者を炙り出す為、敢えて話に乗っかるふりをしカーヴェに会食には行かせた
そこで何も出ず、本当に品が手に入るのならそれもよし
計画に使われた事を彼は怒るだろうが、居候を容認してる恩を少しは返して貰っても問題ないだろう
そうして暗闇の中待ち伏せていたのだ
体格的に女だろうがまさか一人しか来ないとは
状況的に見てもこちらに分があるのは明確だったので、少し観察することにした
彼女は本を取ると月明かりの下ページを捲り出す
その本は比較的学が必要で学生でも読破するには幾らか手こずる内容だったが、どうやら彼女は理解している様だった
そんな学があるのになぜ、今裏で生きているのか
俺はまずそこで彼女に興味を覚えた
組み敷いた彼女は神の目持ちだった事で、単独で乗り込んできたことは理解できたが、尚更学もあり神にも認められる程のものが何故…と謎が深まった
そしてあまりにも無抵抗な彼女に舌でも噛んで自害でもされたら後ろにいるものの情報が掴めないので、猿ぐつわをする為にその顔を隠すヴェールを剥がすと
「綺麗な瞳だな…」
砂漠の夜空に浮かぶ月に様に、美しく輝くその瞳に心を奪われた
先ほどまで大粒に涙を蓄え幾重にも光が屈折した美しい瞳を見せていたAは
泣き疲れたのと先ほど2度も脳震盪を起こしたからか、今は気を失った様に眠っていた
普段の俺なら、嘆いても現状を変える事ができないのに切り裂く様な無駄な叫び声はただの雑音でしか無いはずだ
しかしラメッシュの娘だからなのか、それとも彼女に本当に興味を持っているからなのか…
自分でも驚くほどその声は不快では無かった
「大丈夫だ
後は俺に任せて寝ていればいい」
そう眠っているAに囁くと、Aを抱きかかえて自分のベッドへと寝かせた
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作者名:みずと | 作成日時:2023年7月5日 3時