40話 ページ41
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「おはようA」
囁くような声で目覚める
眠い目を擦りながら目を開けると彼も寝起きだというのに随分と整った顔がこちらを見つめていた
「寝起きだからあんまり見つめられると恥ずかしいんですけど…」
顔を隠す為に彼の胸板に擦り寄ると、ふっと小さな息を漏らして笑う声が聞こえてきた
「寝起きだからと君の魅力が減るわけではないだろう」
私は今、完全にアルハイゼンに依存している
暗闇から掬い上げてくれた後、私が不安になれば惜しげもなく安心できる言葉を掛けてくれて怖いものを見なくて良いように目隠しをしてくれる
特に夜は色々考えてしまうので同じベッドで寝る事を許してくれて、何度も肌も重ねた
欲に溺れている間はアルハイゼンで心も体もいっぱいになり、不安な事も考えなくてすむからだ
話し相手でも居てくれたら少しは楽になる気がするが生憎カーヴェはここ連日仕事で家に帰ってこない日も多く、今のAの世界はほぼアルハイゼンのみで構成されている
そんなことで、あっという間に私は自分のマインドコントロールをアルハイゼンに預けてしまった
「今日は教令院に行かなければならないが、用事が終わればすぐ帰ってくる」
「…そっか、行ってらっしゃい」
まるで底に穴の空いたコップの様にどれだけ愛されようと、いつまでも心の渇きは埋まらなくて、離れるだけで不安になる
「そんな顔をするな」
「ごめん…」
彼の服の裾を握っていた手を下ろそうとすると、するりとその手を取り甲に口付けをされる
「大丈夫だ、必ず帰ってくるから」
「ん」
ガチャリと音をたてて玄関の扉が閉まる
と、同時にもうすでに不安でいっぱいになっている自分に呆れてしまう
組織にいた時はいくらでも自分に嘘を付き動けていたのに
心の拠り所があるというのは、こうまで人を弱くするのか…
それほど彼の用意してくれた白昼夢は甘美であった
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作者名:みずと | 作成日時:2023年7月5日 3時