4話 ページ5
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「おっと…自害するなよ」
あまりに無抵抗なAに諦めて自害されては困ると思ったのか、その男はAをあお向けに転がすと猿ぐつわをするためにAの顔の前に垂れ下がるヴェールを剥がして
(…ああ私が私に戻ってしまう)
母親や妹が殺されてしまうという息苦しさを感じたが
それよりもその枷から、やっと抜け出せる安堵感の方が勝っていた
ヴェールが剥がされ月明かりの光が目に入り込むと
Aの明るい色の瞳がキラキラと、薄暗い中に美しく咲いた
「綺麗な瞳だな…」
男は手を止めAの目をまじまじと見つめると、ポツリとつぶやいた
(…手が、止まった?)
一度は諦めたAだったが、相手が油断しているなら話は別だ
今しか逃げ出すチャンスは無いと思い、足を思い切り振り上げて男を避けさせると、その反動を使い手を使わず立ち上がった
「随分と足癖の悪い猫だな」
「…」
なんとか相手との距離は取れたが、いまだに腕は後ろ手に拘束されたまま
そして書記官で本の虫だと侮っていた相手は、どう見ても自分が叶う実力の相手ではなさそうだ
先ほど床に頭を打ち付けられたせいで、脳震盪を起こしたのかうまく思考ができない頭で必死に打開策を考える
「ふむ…あの本を読めるくらいには頭の良いやつだと思ったのだが、とんだ計算違いだった様だ」
そういうと男の肩にぶら下がった神の目が光ったと同時に男は視界の中から消え、次の瞬間には空中から現れたと思ったらAの背後へと飛び降りてきた
「最悪のシナリオの解決策を今となって考える様では、俺を出し抜こうなど思わないことだ」
ドッ
と後頭部から鈍い音が聞こえてきた後、Aは意識を手放した
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作者名:みずと | 作成日時:2023年7月5日 3時