38話 ページ39
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どのくらい経っただろうか…
アルハイゼンは何も聞かず、いつもの様に本を読むこともせずただ隣に座っていた
今聞かれたところで喉が詰まり息苦しさを感じてまともに声を発せられる気がしないのでありがたかった
彼の手には琢光鏡が淡く光り、暗闇の中お互いの顔だけを照らしている
Aにとってここは己のドロドロとした感情を思い出させる、居心地の良い場所では無い
だがそれと同時にここは“真っ黒”な私が唯一そのままいて良い場所なのだ
“白い”自分になりたくて頑張ってきたが、あの店員の明確な拒否反応を見た時、自分が光の中にいる事が異質なのだと思い知ってしまった
私と仲良くしてくれている人は私は“被害者”だと言ってくれるし、そんな事関係なく受け入れてくれている
けれどそれは同情や優しさで受け入れてくれているだけかもしれないし
それに彼らの輪から一歩でも出れば、昔私と交流があった人でさえ今日みたいに拒否反応を起こすのだ
そう思ったらこれ以上光に近付くのが恐ろしく感じてしまった
ここが唯一無防備に居られる居場所だと思ってしまったのだ
「…ここは、何も無いな」
今まで何も言わずに隣にいたアルハイゼンが急に口を開く
「あれほど本が好きな君のことだ
さぞつまらなかっただろう」
ぎしりと音をたててベッドからアルハイゼンが腰を上げると、おもむろに部屋を見回る様に歩き出した
琢光鏡がそばに無くなった事によりAの周りはまた暗闇につつまれたが
離れた後も暗闇の中アルハイゼンだけを照らしているその様は、まるで漆黒に包まれた星一つない夜に導いてくれる灯台の灯りの様だった
「廊下との壁は半分が鉄格子、扉には何錠もの鍵
ふ…、まるで牢獄の様だな」
心底呆れた様に、どこか吐き捨てる様にそう言い放つアルハイゼンは彼にしては珍しくパッと見でわかるほどのしかめ面をしていた
「…めんなさい…」
精神的にやられて喉が詰まった私の喉からは思ってた以上に酷い音が漏れた
「…なぜ君が謝る」
「だって私が逃げ出したから
こんな嫌な場所にまで来させちゃって…
もう大丈夫だから、先帰って…」
そう必死に絞り出した蚊の鳴くような声で言うと、頭上から大きなため息が聞こえた
「大丈夫な奴がどうしてこんなに震えているんだ」
アルハイゼンは私の腕を引くと、その腕の中へと私をしまった
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作者名：みずと | 作成日時：2023年7月5日 3時
