37話 ページ38
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「…A
ここにいたのか」
彼女は光一つ差し込まない、何もない小部屋で小さくなっていた
時は遡り…
俺は用を足すためにAのそばを離れていた時だった
遠くから“失礼します…！！！”とやけに怯え焦ったAの声が聞こえてきたので、急いでAが待つ店内へと戻った
しかし待っていたのはこちらも戸惑いの色を隠せず棒立ちになった店員しかおらず、Aは消えていた
店員に話を聞くとどうやら相当ショックを受けた様子で店を飛び出て行ったらしい
案の定自宅には帰っておらず、カフェや昔のAの家や行きそうな場所を探して最後に行き着いた場所が、少し前までAが所属していた組織のアジトだった
そこは今はもう判決材料として色々と運び出された後でもぬけの殻となっていたが、その前まではそれなりに潤っていたのか良さそうな酒瓶などが転がっている
それも一重にAという神の目持ちが消費されていたからだろう…
そう考えると無性に腹が立ち転がった酒瓶を踏み抜いた
“…！”
酒瓶がガシャンと大きい音を起てたと同時に、通路の先から悲鳴の様な声にもならない小さな音が聞こえてきた
俺は足早に通路へと足を進める
先ほど酒瓶やらが転がっていた部屋とは打って変わりジメジメとあまりに薄暗く、まるで牢屋の様な雰囲気の中一つ部屋があった
重厚で鍵が何個も付けられる様になっている扉を開けると、部屋の中は真っ暗で目を凝らすと暗がりの中人影がモゾっと動くのが見えた
「A」
名前を呼ぶと、ビクリと一瞬体を震わせたのが辛うじて見えた
生憎光になる様なものは琢光鏡くらいしかなく、微かな淡い光にぼんやりと映し出された部屋は本当に牢屋と誤認するくらい何もない場所だった
何不自由なく愛されて育ってきた彼女がいきなり父親を殺され、一夜にして何もないただただ家族を生かす為に自分をすり減らせていく場所に落ちたのだ
どれだけの苦痛や絶望をその身に受けたのだろうか
目の前で何かに怯える様に膝を抱えて小さくなっているAを見たら胸が張り裂けそうなほど締め付けられる感覚がした…
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作者名：みずと | 作成日時：2023年7月5日 3時
