36話 ページ37
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あれから気がつくと、私は逃げる様にお店を飛び出していた
迂闊だった…
シティで日用品を買った時も普段の朝食の材料を買いに出向く時も、もう何回も人前に顔を晒していたが一度も私の正体を気付かれたことはなかった
それもそうだ
今と昔とは生活圏が違う
昔は日用品だけでなく、身の回りのものは全て用意されていたので自分で買い物など行くこともなかったが、今日行った様なお店は外商として家に来る時もあればたまに両親に連れて行ってもらう時もあった
もう数年前とはいえ一人ぐらい私の顔を思えていてもおかしくない
アルハイゼンが扉を押さえていてくれたので店名も確認することなく入ってしまったので先に気付くこともなかった
あぁアルハイゼンやカーヴェがなんの偏見もなく、ただの人として接してくれるのに慣れすぎて、未だ世間では“禁忌の知識に手を出して無理心中した恥晒しな一家の娘”のレッテルは払拭されていない事を忘れてしまっていた…
きっと死んだと思われていた娘が生きていたと言う事で、噂は瞬く間に広がるだろう
「…やっと光の中に戻れたと思ったのに」
やっと手に入れた“人間らしい生活”だったのに
やっと何も縛られず何にも怯えずいられたのに
「白昼夢の様に消えてしまうのね…」
「私もあの夢とともに消えてなくなりたい…」
Aはもう何を考えるのも、聞くのも嫌になり暗い部屋の中目を伏せて眠りについた
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作者名:みずと | 作成日時:2023年7月5日 3時