19話 ページ20
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「起きれるか」
事が済み一度キッチンへ行き水を持ってまた帰ってきたが、今だに彼女はベッドで項垂れていた
「…大丈夫」
重い体を押して起き上がるAに、グラスに入った水を手渡すと自身も水を飲み一息ついた
昔一度、実験の為にちょうど言い寄ってきた女性と短期間交際し経験した事があったが、交際自体面倒ごとが増えただけで、世では依存者や交際相手じゃ満足できず他で行うものもいる程と聞いていた行為自体もそこまで満足度も無かった
しかし先ほど挑発的な行動をして俺の上に乗り、その憂いを帯びた彼女の瞳を見た瞬間今まで感じたことのない高揚感を感じ、自分でも驚くほど熱中した時間を過ごした
「しかし君からこの様な事を誘ってくるとは」
「…」
心ここに在らず、Aはアルハイゼンの言葉に聞こえているのか聞こえていないのか分からないが反応はせず淡々と服を着直していた
普段自分が意図的に返事を返さない事はよくあるが、無駄な会話をするのは生産性のない行為だと感じるので周りがとやかく言おうと辞める気はない
ただ、何故か今Aからの反応が無いことに不思議と居心地の悪さを感じた
「…A」
「ん?なんですか?」
振り返りこちらに反応を示したAを見て、聞こえていなかっただけな事がわかるとその居心地の悪さも消えた
「まあ女性でも色欲というものは生物として当然あるものだからな
存外俺も楽しむ事ができた」
「…え?」
キョトンとした声を出したAを見ると、みるみるうちに彼女の顔は赤くなり、羞恥心に打ちひしがられた様だった
「ちがっ…私は」
「…誘ったわけでは無いのか?」
「私は…これ以外何も返せないから…!
あなたは私に興味があるって言ったけど私は神の目と捌け口にしてもらうくらいしか価値がないから…」
ボロボロと瞳に大粒の涙を貯めたAから出た言葉は思いもよらない言葉だった
「…まさか昼間の俺の言葉をその様に解釈するとは」
Aの背景を考えると、今の彼女がそう解釈するのも理解し難いわけではなかった
彼女は普通の人生を歩んでいないのだ
上流層の家庭で生まれ、何不自由なく人の悪意に何も触れずにいられた環境から、一夜にして一変した
周りは彼女を“消費物”として扱い、極限の環境に身を置かせ徐々に純粋な精神を侵食していった
そんなAが自分の価値を見誤るのも無理もない話だった
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作者名:みずと | 作成日時:2023年7月5日 3時