16話 ページ17
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「寝具などを買い足すまで君は書斎にソファーを移動させてそこで寝てくれ」
「ご迷惑おかけします」
話についていけないまま自分の今後が決まり、流れに身を任せアルハイゼンの家に少しの間居候させてもらうことになった
「あの、カーヴェもここに住んでいるみたいですし確認せず良かったのでしょうか…」
「彼は勝手に居候しているだけだ
ここの家主は俺だから不満なのならば彼が出ていけばいい」
そう言い、重たそうなソファーを一人で持ち上げ奥へと進んでいくアルハイゼン
手伝おうにもすんなり運んでいくので逆に邪魔をしてしまいそうでただ着いていくだけだった
「なぜここまで私にしてくれるの?」
未遂とは言え夜襲をした事も何も咎めず、その上組織から私だけでなく家族までも救い出してくれた
それだけでも一生返せない程の恩義があるのに更に身元引受人にまでなってくれたのだ
昔はただ与えられた事をこなすだけの何も知らない状態で、組織に縛られている間はずっと相手にとって自分が何か成し遂げなければ自分は無価値で、害を与えてくる存在しか知らなかった
お前の働き次第で解放してやる、と言われても一度も守ってもらえた事がなく、甘い話を信じる方が馬鹿なのだと
そんな中で今まで生きてきたAは素直に相手の好意を受け取れる状態ではなく、人間不信になっていた
「ふむ…」
アルハイゼンはAが下を向き今の状況を飲み込めていないのに気付いたのか、少し考えた後Aの目の前に近寄った
そのままAの顎へと手を伸ばすと俯いていたAの顔を持ち上げ真っ直ぐに瞳を見る
「君に興味を持ったから、としか言えないな」
スルリとAの目の下を指で撫でる
「どう、ゆうことでしょう…」
思わずビクリと体を跳ねさせる
彼は口数が少なく、表情も豊かでは無い
その表情からは何も汲み取る事が出来ず、Aはただ疑問が増えるばかりだった
「そのままの意味だ」
そういうと顔から手を下ろしAがまだ質問したそうなのを気にする事なく机の引き出しを開くと巾着を一つAに渡してきた
「とりあえずこのモラを渡しておくからこれで必要なものを買ってくればいい
足りなくなったらまた言ってくれ」
ズシリと手の上に置かれた巾着は中身を見なくてもポンと渡すような額じゃない
書斎から出ていく彼の背を見るAの心はこの巾着の様に重く疑問が残ったままだった
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作者名:みずと | 作成日時:2023年7月5日 3時