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「イルカのくーちゃんでした〜!!」




見事なショーを披露してみせたイルカは大きな水槽の縁に寄り、トレーナーのお姉さんと同じように手を振っている。





『あははっ、可愛い』




Aは笑いながらいつまでも拍手を送っている。
銀八はそんな彼女を見ながら「うん、可愛いね」と返事した。




『ちょっと、ちゃんとくーちゃんを見て』





見てるのがバレたのか少し怒った顔をしてみせるがそれすらも可愛いと思ってしまうのだから重症だ。
自覚はある。





「カワウソの握手会まで少し時間あるし中見て回る?」



『うん、そうしよ』





皆考える事は同じなのか。周りも一斉に動き出した。


銀八はAと逸れないようにと彼女の手を握り側に寄るよう誘導する。
Aはその手を握り返して、室内に入ってからも離そうとはしなかった。





『……』





水槽の中の魚を真剣に見つめるAの表情が薄いライトによって照らされている。





「俺みたいな魚でも見つけた?」

『んー…、私たちみたいな魚は見つけたよ』

「どれ?」





Aの細い指がスッと指差す先には二匹の魚がくっ付いて泳いでいる。
逸れそうになると一匹が引き返し再び一緒になった。





「仲良しだ?」



『うん、仲良し』





ガラス一枚向こうの魚に微笑み、また歩き出す彼女の手に引っ張られ次の水槽へと向かう。






「ママ! 見て!!」



「わぁ、お魚さんたくさん居るね〜」





子供の声が聞こえ、それにはAも釣られて目を向けた。






「…? A、行かないの?」







立ち止まったまま一組の家族を見ている彼女に声を掛けた。





『うん、行こ』






その後もAは静かに一つ一つの水槽を見て回っていた。


.



.



.






「そろそろ時間だな」

『もうそんな時間? 夢中になっちゃった』

「やっぱ普通に好きなんじゃん、水族館」







Aはニッコリ笑うだけで何か言う事は無かった。
入場の際に貰った整理券で念願のカワウソとの握手会。
少し並びはしたものの順番はすぐにやってきて、スタッフの案内に従い、Aは恐る恐る手を差し伸べる。




『わ、わ、わ…!』

「ははっ、可愛い」

『銀八も銀八も』








感想を伝えるよりも体験してほしいようで、キラキラした目で見られた。
スタッフも「是非」と背中を押すもんだからよっぽどなのだろう。
そっと差し伸べた手の上に小さなカワウソの手が乗る。





「ぅわ…っ、柔らか…」

『ね、ね、凄いでしょ?』

「うーん、これはAのほっぺと良い勝負」






銀八の感想にスタッフさんは笑ったがAはと言えばもっと他にあるだろうと『バカ』と一言放つのだった。



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作者名:アカツキ | 作成日時:2024年1月14日 0時

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