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もういいかい。
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もう何年も足を運ぶことはしなかった。
理由は単純明快、来たくなかったから。
焼け落ちた村塾。
あの日炎に包まれるその光景は今でも忘れない。
「もう、いいかィ」
『......___』
真っ黒に煤汚れたそこから、微かに聞こえる。
歩く度に足元からパキッ、と木の枝だか、焼け残りの木片だかが音を鳴らした。
「顔が煤で汚れちまってらァ」
『見付けた時はなんて言うの?』
「...見付けた、A」
『随分時間掛かったね』
そこに隠れる場所なんてない。
いや、あったとしてもたかが知れてる。
それでも彼女は小さく身を隠し息を潜めていた。
最後に見た姿よりも痩せ、余計に小さく見える。
未だに丸まるように座るAに近付き膝を着いては彼女をそっと抱き締めた。
「.........」
『心配してくれたの?』
クスクスと笑いながら俺の背に腕を回して抱きしめ返す其奴の体は少し冷たくて何だか抱き心地が悪かった。
何も言わないでいると彼女はゆっくりと話し出す。
『銀ちゃんに依頼したの』
『此処に隠れるから、何度か食べ物を持ってきてもらった』
『貴方はなかなか見つけてくれないから困っちゃった』
俺は顔を歪めた。
Aには見られないように抱き締める腕は緩めなかった。
『期限は一ヶ月』
『......それまでに晋助が来なかったら...』
そこで言葉を切り、そして俺から体を離す彼女は困ったように眉尻を下げ続きを話す。
『来なかったら、もう二度と晋助の前には現れないつもりだったの』
それを聞き、漸く口を開いた。
何を言おうか考える間も無く、気付けば発していた。
「いつもは御前が鬼だろうが」
「...嘘を吐くなと口煩く言ってたのは何処の何奴だ」
「御前ェの方がよっぽど嘘吐きじゃねぇか」
今、自身がどんな顔をしているかなんて目の前にいる彼女にしか分からない。
Aは大きな目を更に大きくした後、ふ、と表情を緩めて俺の顔に手を伸ばした。
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アカツキ(プロフ) - 紅さん» コメント有難うございます。そんなに長くならずに完結すると思いますがもう少し付き合いくださいませ (2021年3月29日 18時) (レス) id: 716f2c046c (このIDを非表示/違反報告)
紅(プロフ) - 応援してます!!更新待ってます! (2021年3月29日 13時) (レス) id: b08ab2dbca (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 東雲 晄さん» 東雲さん、お久しぶりです。前作に続きコメント有難うございます。高杉落ちは毎度暗い感じになりがちですが、雰囲気を楽しんでもらえればと思います...! 見守ってくださると嬉しいです (2021年3月25日 18時) (レス) id: 6533fa6fd3 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 晄(プロフ) - お久しぶりです!前作から来ました!晋助夢ありがとうございます!続き楽しみにしてます! (2021年3月25日 17時) (レス) id: 91bd77f472 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年3月25日 0時