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沈痛 ページ15

朝。
昨日と同じ服を着たまま帰路についた。

ベットの上で皺を刻み込んだ着物は、どんなに伸ばしても元には戻らない。
なんだかタバコのにおいが染みついている気さえした。
襟の下には密かに何輪もの花が咲いていて、過ちからは逃れられないのだと言っている様だ。

いつもの街が少し違って見えて、どうにも現実味がない。


浮遊感。頭痛。


おぼつかない足取りでたどり着いたのは、簪屋で働き始めた頃から借りているアパート。
いつまでも銀ちゃんのお世話になりっぱなしでは自立できない、と心を鬼にして一人暮らしを始めたのである。

その時銀ちゃんは少し不服そうな顔で「別になりっぱなしでもいーんじゃねぇの?」と言っていたっけ。
今ならその意味が分かる。





荷物の中に手を突っ込んでがさがさとひっくり返し、鍵を取り出した。
...けれど、鍵穴に鍵を差し込んだあたりで異変に気づく。

「え?」

確かに閉めていったはずの玄関が開いていた。
恐る恐る扉を開けると、脱ぎ捨てられた黒いブーツが二足散らばっている。
リビングにぼんやりと明かりがともっているのが分かった。




冷たい廊下の床が軋む。

心臓の動機が収まらなかった。
息が詰まって苦しくて、思わず手を握りしめる。

この瞬間に恐怖し続けてきたのだ。
雨の中、信号で土方さんに会ったその時から。ずっと。

リビングの扉に手を伸ばすと、ドアノブに触れる前にひとりでに扉は開いた。



「堂々と朝帰りたぁ、いい度胸じゃねぇか。」



背が凍りつく様な低音は計り知れないほどの感情を含んでいる。
軽蔑か憎悪か、はたまた失望か。

もう外は明るいのにカーテンは全て締め切られ、照明の光だけが室内を満たしていて。

惨めで仕方なくて、ぎゅっと着物の裾を握った。
空っぽの胃を握りつぶされたみたいに、張りつめた空気にむせ返る。

目の前に立ちはだかる体は、今までの様に私を優しく包み込んでくれるものでは無くなっていた。
銀ちゃんを恐怖の対象としてみたのはこれが初めてだった。


「銀ちゃん、その、ごめん。」

「......否定も言い訳もする気はねぇってか。」


手首を掴まれ強引に引っ張られる。
鞄の中身が廊下に散らばるけれどそんな事はお構いなしだ。
荒々しい扱いから、ただひしひしと怒りだけが伝わってくる。

寝室に連れていかれ、ベットに放り投げられた。
簡単に両手の自由を奪われ組み敷かれてしまう。



私を見下ろす銀ちゃんは悲痛な笑みを浮かベていた。ただただ、苦しそうに。

冀望※→←共犯※



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 坂田銀時   
作品ジャンル:アニメ
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年6月10日 21時

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