聴いて (ページ5)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:5,691 hit

05 ページ5

「すいません、取り乱してしまって」

「いえいえ、こちらこそすみません
そんなに有名な方だなんて思ってもいなくて」

「いえいえ、申し訳ないです」

取り繕うように言葉を口から吐いていくが
俺の頭の中は依然平静を取り戻せていなくて
考えれば考えるほどにこの状況が理解できなくなってゆく

目の前で申し訳なさそうにしているその人は
姉の後輩で
少し前まで海外にいて
俺の活動のことを何も知らなくて
最近の日本のことにうとくて

整理しようとしてもつきそうにもない

そもそも俺のことを知らないとなると大きな疑問が一つ浮かぶ

「あの、今日会うことになった理由ってなんなんすかね？」

これなのだ
姉貴がいくら海外にいて俺の今の状況を逐一知らないとはいえ
一社会人として働き始めている弟にわざわざ休日に時間を作らせて
この人と会わせようと思うのならよほどの理由があったっていいはずなのだ

疑問を投げかけるとその人は少し恥ずかしそうに話始める

「いや、さっき少しお話ししたんですけど
私半年前まで海外で仕事をしていて長いこと住んでいたんですけど
仕事が落ち着いてきて拠点を日本に移すことになったはいいものの
向こうに移る前の交友関係がほぼ途切れてしまってて
友達とかプライベートでお話しできる人がほとんどいないんです
仕事柄家でパソコンと向き合う生活なので外の人と新しい関係を持つこともそうそうなくて
それを寛太さんのお姉さまがひどく心配してくださって
そういうことならと、寛太さんに声をかけてくださったようで
私事で申し訳ないです、しかも日々お忙しくされているでしょうに
本当にすみません、こんなことに付き合わせてしまって」

話せば話すほどに申し訳なさが積み重なって行く様が
ありありと表情に現れているその顔を見ていると
なんだか聞いているこっちが申し訳なく思えてくる
捨てられた子犬を見ているようだ

「いや、そんなことがあったんですね
僕も普段家からあまり出ないんで気持ちはなんとなくわかります」

そうフォローをかけると俯いていた顔を上げて
嬉々としてまた俺の目をまっすぐ見つめる

「そう言っていただけると助かります
お姉さまに作って貰った機会だったこともあって
お断りするのも申し訳なく感じてしまっていたので」

「いえいえ、僕もそんな感じだったのでお互い様なんじゃないですか？」

そう聞いて少し安心した相手がそう思ってくれているならこれからの関係性に面倒なことはなさそうだ