寂滅の天使は夜に笑う3 (ページ10)

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91阿部side ページ10

お医者さんが来て柊を見てくれている間に母さんも帰ってきた。詳しい検査は明日やるそうで柊は入院することになり、21時を回ったので俺と母さんは帰ることになった。

帰り道は一言も話さず、いや話せずに俺の身体を考慮してかタクシーで帰った。

柊が目を覚ましたのは良いこと。でもそれは必然的にこの怪我の理由を話さなくてはいけないと言うことでもある。

頭をフル回転させて言い訳を考えるが、まともに良い案は出なかった。

俺は精神的にも肉体的にも限界を越えていたんだ。

毎日毎日、朝から放課後まであいつらのサンドバッグになって、授業に出れたとしても教科書は無いし内容にもついていけない。
模試の結果も悲惨でいつもなら親や先生に報告するのだが、高校になってからは全部その場で捨てた。

仲良くしていた友達も直ぐに離れていって、話しかけても気まずそうな顔をして返事をしてはくれなかった。

そんな生活を送っているものだから家に帰ると部屋に篭って死んだように眠る。家族に顔を合わせるとどうにもやるせない気持ちになるからなるべく会わないように、勉強という理由をつけて夕飯も食べなかった。

そのせいで低栄養状態が続き、治癒能力も低くなり受けた暴行の傷はいつまで経っても治らない。
免疫力も低くなって体温の高い日が続いていた。それはきっと精神的なものも相まっていたんだろう。

高校生活に期待を抱いていた分、裏切られた時の絶望感は言葉では言い表せない。

人生のどん底にいるようだった。

そこで丸一日眠る(正しくは気絶していたのかもしれない)ような暴行をされ、柊までその被害にあったなんて聞いたんだ。まともでいられる筈がない。

だからごめんね、母さん。

俺にはこんな方法しか思いつかないや。

家についてさっきの質問を投げかけられた所で俺は行動に出た。

阿「ねえ母さん。どうしても言えない理由があるんだよ。わかってくれる？」

母「亮平…！何してるの！」

腰掛けているのは幅10センチもない手すり。後ろに少しでも体重をかければ頭から、遠く離れた地面に叩きつけられるだろう。

ここは三階。死ぬことは多分出来ないけど大怪我にはなる。

これで首を縦に振らない親は居ないだろう。

阿「俺は本気だよ。」

心配かけたく無いから言わない筈だったのに。結局心配かけるようなことをして。

でも、色んなことがあって全然機能してくれない脳みそでは、天秤にかけるようなものは俺自身の命しか思いつかなかった。