1138話 戻る記憶のパーツ ページ8
『えっ!?2人は知ってるんですか!?この曲!!』
まだ検索もしていないのでAは曲のタイトルどころか、アニメの名前すら知らない。それなのに2人は、ひらがなが続く歌詞を見ただけで反応した
前のめりになり声を張れば、興奮気味に2人は語り出す
「知ってるぜ!機動部隊マキナの主題歌!これさ結構マイナーなんだけど、ストーリーが面白くってさ!沢山のダチに勧めてたんだ」
「でも古すぎるのと、ロボットアニメだけどドロドロとしたヒューマンドラマ味もあったから、結構好き嫌いがハッキリと分かれる作品だったんだよ」
「そーそ!だから結局最終話まで見てくれたのは独歩ちんだけなんだー」
『そうなんですか……。機動部隊マキナ……』
アニメ自体は見た事が無い。だけど、パパが楽しく歌っていた記憶は鮮明に残っている
彼の好みを知れた事でAは懐かしむように表情を綻ばせた。その顔を見た一二三と独歩は、互いの顔を見合せニヤリと笑う
そして一二三が端末へ手を伸ばし、操作してAが打ち込んだ歌詞で検索してその曲を入れた
「じゃあAちゃんの為に歌ってしんぜよー!!」
『えっ!良いんですか!?』
「フルで歌える自身はないけど、学生の時はふざけてて歌ってたんだ。懐かしいな一二三」
「うわ〜マジ懐かし!こういうのってー、1人で歌うよりダチと歌うと盛り上がるよな!」
スピーカーから流れ始める、時代を感じさせられるイントロ。テレビには歌詞の他に、アニメ映像も映し出されていた
それぞれマイクを掴み立ち上がる彼等は、Aを前にして歌詞を見ずに全身を大きく使って心のままに歌い始める。先程のストレス発散でも無く、盛り上げる為でもなく、仲のいい親友と楽しくふざける様に紡がれる歌は、彼女の視界を簡単に歪ませた
『………っ、』
「空を駆ける純白の翼〜♪どんな敵も追いつけな〜い〜♪」
「鋭い剣は〜♪全ての悪を〜切り〜裂く〜♪」
自信が無いと言いつつも、一二三と独歩で乱れなくワンフレーズずつ交代、サビは一緒に盛り上がっている。音程も雰囲気も記憶の中のパパと一緒だ。はらはらと静かに涙を流すAは晴れやかな笑顔で、目の前の楽しげな光景を懐かしんでいる様だった
『俺が……必ず……護ってみせーる……』
彼等の声に合わせて、Aも静かに口ずさむ。
持っていたマラカスは振る事を忘れ、ぎゅ……とにぎり締められる。
失われた記憶のパーツが1つ戻ったと、彼女の胸が温かくなった
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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時