1019話 バレている若頭 ページ39
────1週間後。
電話の通りに火貂退紅に呼び出された左馬刻は、自身の事務所で彼と向き合う
“不撓不屈”と書かれた扁額に見守られる中、2人は机を挟んで黒く輝くソファに座っている。退紅の後ろには廉貞を含め4人の舎弟が立たされており、左馬刻は眉間に皺を寄せて彼等を見ていた
ピリついた空間。若頭と組長が静かに向き合っているこの部屋は、緊張が走っている。何人かの舎弟は早く終われと念じている事だろう
舎弟の1人が準備していたお茶を、退紅は静かに啜る
話が始まらず痺れを切らした左馬刻が先ず口を開かせた
「ンで?態々俺を呼ぶって事は、どっかのノミ野郎を潰せって事か?」
「いやぁそういう訳じゃねぇ。今日はお前に聞きてぇ事があってな」
コトン……と湯呑みを置いた退紅は目を光らせて若頭を見据える。並大抵の人物ならこの眼光に恐れる事だろう。しかし相手は左馬刻。面倒くさそうに返すのだった
「聞きたい事だァ?下らねぇ事だったら帰ンぞ」
「はっはっはっ、そう言うな」
「はぁ……じゃあさっさと言ってくれ、暇じゃねぇンだよ」
そろそろ煙草が吸いたい。イライラを誤魔化す為に左馬刻もお茶を口にした
「───お前、女出来たのか?」
「ンブッ!!?」
突然のボディブロー。思わず飲もうとしていたお茶が器官に入り、盛大に噎せる。見事なリアクションに退紅は太腿を叩きながら大声を上げて笑った
「ダーッハハハッ!吹き出す程の動揺とはまだまだ青いじゃねぇか」
「ッルセェ!!突拍子も無さ過ぎんだろ!態々呼んでソレとか暇か!!」
「息子の色事情は気になっちまうタチでなぁ?最近急に不機嫌になったかと思えば大人しくなっただの、スマホ見る時は表情が優しいだの、昼御飯は外に行くだの噂に聞いてなぁ?」
愉快そうに笑う退紅の後ろで、喋ってしまったのであろう舎弟全員が表情を引き攣らせて若頭から顔を背けた。それは“自分が言いました”と言っている様なモノで、犯人が特定出来た左馬刻の眼光は鋭さを増した
「全員ぶっ殺す」
絶対零度の如く殺意しか感じれない言葉。あ、俺/自分 死んだな……と死期を悟った舎弟。息子達が可愛く見えた退紅はより笑い声を上げ、落ち着いたところで口を開いた
「突然若頭が丸くなったら心配しちまうだろ?大目に見てやれ」
ガチギレ左馬刻に臆するどころか宥めた組長の姿に、舎弟は思わず眼を潤ませる。そして“一生ついて行きますオヤジ!”と純粋に思っているのであった
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時