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993話 味見と言う名のつまみ食い ページ13

身嗜みを整え、いつもの服に着替えた頃には左馬刻の頭は完全に覚醒した

スタスタとリビングへ通ずる廊下を歩く彼の表情は、第三者から見れば気怠そうな不機嫌顔。しかしその心の内はAと2人きりで、しかもAの手作り朝食を食べれる事にワクワクしている

つまりそれを悟らせない為に誤魔化したのが不機嫌顔の正体である



期待で胸が膨らむのを抑えながらリビングの扉を開けると、朝食の準備を終えたAが椅子に座っている。テーブルの上には、白ご飯、味噌汁、梅と大葉が乗った冷奴、野菜オムレツと彼女のテンションが反映されたような朝食が綺麗に並べられていた

扉の開ける音に気づいたAは直ぐに顔を向けて明るく笑う


『左馬刻さんっ、どうですかね私の作った朝ごはんは!』

「満点だわ。流石理鶯ン所にいるだけあンな」


優雅な朝食を挟み、Aと向かい合わせに座った左馬刻は、優しく微笑む

ゲテモノ料理で育った彼女であるが、料理の発想力は普通になってくれている。微笑みの中には安堵の色も混じっていた

一方左馬刻に褒められたAは、目を輝かせた後に細めて満面の笑みを咲かせた

2人を包む空気は春の野原の様に温かく、ハマの王にとって平和で幸福に満ちたモノ。時間の流れもゆったりとした錯覚してしまう程だった


「ンじゃ食べるか」

『はいっ!』


手を合わせてそれぞれ好きなモノから口に運ぶ。特別な材料も調味料も使っていない。左馬刻自身もよく作る料理もあったが、どれも違って優しい味わいで自然と表情は綻んでしまう

ふと左馬刻はチームメイトの理鶯が“料理は気持ちも美味しくなるスパイス”とかそれに近い事を言っていたのを思い出す。きっとAが優しい気持ちで作ってくれたのかもしれないと、よりその表情が深まった


「ふっ、美味ェわ」

『ほ、ホントですか!?良かったです!!』

「昼の弁当、楽しみだなァ」

『ふふんっ!結構自信作なので期待してて下さい!!味見もしましたし、不味くありません!』


得意気に笑うAは、パクパクと自身が作った料理を食べ進めていく。よく噛んでいる様に見えるが、ペースはテンションと比例してか早い

子供っぽい、しかしそれが可愛らしい。左馬刻はニッ、と悪戯っ子の笑みを浮かべて口を開いた


「お前、味見ってどんだけしたんだよ。朝飯の量もあまり俺のと変わらねぇし、食い過ぎてねぇか?」

『むぐ、うぬぬ……。そ、それは……。あはは……』

「ハハッ食い過ぎてンのかよ」

994話 なんつースピードで入れてやがる→←992話 いつも通りじゃない若頭の朝



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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時

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