その3 ページ4
ふと、天の川にまつわる話を思い出した。
これが最終手段だ。
「君は、織姫と彦星の話をどう思う?」
「傍から見ると切ない気持ちにさせられる話」
「ごめん、よく分からない」
含みのある言い方だった。
「織姫と彦星は結婚する前は働き者であった。けど、結婚してから全く働かなくなり、それを見て怒った天帝は二人を引き離す。そして以前のように働くのであれば、七月七日の夜にだけ会って良いとされたらしい」
「なるほど、驚いた」
「でしょ」
そっちじゃない。
「君が長文を話したことに、驚いたんだ」
「そこは盲点だった」
彼女が長々と話す姿は、目に焼き付けた。
すると彼女は私に言った。
「そろそろ日が落ちるから帰りたい」
「それは仕方ない。自転車の運転は任せて」
「任せた」
「うん、任された」
自転車の後ろに彼女を乗せて安全運転する。
ふと思った。私は、君にとっての彦星になれているかな?
すると後ろから彼女が声をかけてきた。
「やっぱり夏なんてなくなればいいのに」
「どうして?」
図書館で言っていた台詞とは違い、彼女は少し不貞腐れたような声だ。
私は聞き返すように尋ねる。不貞腐れた表情よりも、笑った表情の方が好ましいから。
「私は汗を掻いてしまっている」
「夏だもの、仕方ないさ」
「汗のせいで貴方に抱きつけない」
意外だった。
風を受けながら答える。
「私は気にしないけど」
「私は気にするの。貴方が好きだから、恥ずかしい」
君にそんな感情があったのか。
言いたくなったがやめた。
その代わり、自転車を右の空き地へ漕いで、降りる。
彼女もつられて降りた。
「……どうしたの」
「ねえ、君は私といて幸せ?」
「当たり前」
彼女の顔はいつも変わらない無愛想だ。
でも、それが愛おしくてたまらない。
彼女の頬に手を添えて、そっとキスをした。
「ん……」
彼女は少し驚いたあと、目を瞑った。
唇が離れると、彼女は言った。
「ねえ」
「なんだい?」
彼女は、ふっと微笑み、
「すき」
と言った。
私には彼女に、どうしても言いたいことがあった。
「今日の晩御飯、何がいい?」
「素麺がいい」
「涼しくなるね」
*暑いのは嫌だけど、君と触れ合うのは平気だよね。
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Deco - 中也さんの五分後最高でした!私もこんなバレンタイン過ごして見たい…… (2018年12月16日 15時) (レス) id: 9c8b9058f8 (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - 5分後シリーズ全巻持ってます(自慢) (2018年10月10日 22時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱寧 x他1人 | 作成日時:2018年8月19日 10時